第二十話 船体強度

船体には恐ろしいぐらいのストレスがかかる。マストが立って、ワイヤーやロッド
で常にテンションがかかり、そのマストについたセールは風の大きな力がかかる
おまけに波があって、船体を叩きつけ、船体には大きなストレスがかかります。
それによって船体はねじ曲げられます。

船体にはハルとデッキだけではなく、それを補強するストリンガーがある。最近
ではこれをモールドで成型し、船底に設置するケースが多くなりました。これは
工事がより簡易になる為です。何故かと言いますと、これを船底に設置するだけ
で床の高さが一定の同じ高さにできる。このストリンガーを一本づつ造って、設置
しながら床面の高さを揃えるのは面倒なのです。でも、面倒な方が強度ははるか
にある。もちろん、1本1本積層して設置しなければなりません。これで船体とスト
リンガーは一体となる。モールド成型によるストリンガーは工期を短縮できます。
これを船底に設置する場合、できるだけ積層面を多くしながら船底に積層する方
がくっつきが良いに決まっています。場合によっては一切の積層をせずにパテで
接着している物もありますが、これは将来はがれる事がある。稀では無く、よくある
それで、はがれるとどうなるか、ハルと補強剤が離れるわけですから、もはや船体
だけの強度になる。それで波に叩かれ続けたりするとどうなるか。怖いです。

ハルとデッキの接合方法もいろいろです。ハルを内側に曲げて、その上にデッキ
を乗せ、接着剤とボルトナットの接合は一般的ですが、これは下からの力に対して
強い方法だとは思いますが、デッキの縁を立ち上げて、横方向に接合してある艇
もある。これなど下からの力に対しては弱い。でも、工事が簡単なのです。ボルト
ナットは常識かと思ったら、タッピング留めというのもある。

インナーモールドを使うようになって、工事はどんどん簡単になってきました。でも
あまりにもこれに頼ると、問題がある。バルクヘッドが船底とデッキに接触して船体
強度になりますが、これもモールド内に収まり、パテだけの接着というのもある。
やはりこれもグラスでラミネートした方が良い。良いヨットは家具の全てを船底に
ラミネートして強度を増しているヨットもあります。でも、これらは全て手間がかかる
と言う事はお金がかかる。

これらの事は船の寿命にかかわる。良いヨットは強い、20年、30年経ってもへっち
ゃら、そうでないヨットはずれが生じてくる。ヨットの寿命というのはFRPそのものより
こういう工法による方が先に来るかもしれない。同じヨットにそんなに長く乗らないに
しても、車のように廃車になれば良いのですが、ヨットは長い。それに強度がある
ヨットはやはり時化た時に乗ると解ります。安心できる。

船体剛性を高める為にサンドイッチ構造にするケースが多い。厚みが出ますから、
剛性は高まる。心配になるのが剥離の問題です。今のところバキュームバッグ方式
が一番良い方法かもしれません。これはビニールカバーをかけて真空引きすると、
気圧の力で押し付けて、樹脂をくまなく浸透させる方法です。気圧の力は慣れた我々
は感じませんが、実際はすごい大きな力なのです。

ついでながら、ガラス繊維を固める樹脂について言いますと、通常は最も安いポリ
エステル樹脂を使う事が多い。しかし、水分を吸収します。ビニルエステル樹脂は
高価ですが水分吸収率が低い。さらにエポキシは高価でさらに良いわけです。
水分を吸収すると、船体に海水が浸透し、積層間に気泡があれば化学反応をおこ
してオスモーシスになる。オスモーシスが出たら、そこの部分を削りパテ埋めしたり
しますが、大きいと、それにたくさん出ると強度にかかわってくる。積層が元々厚け
ればそれほど問題は無いかもしれませんが、薄ければ強度は心配です。

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