第八十三話 先入観

これまでレースかクルージングかのふたつのジャンルに分けていた為、全てのヨットをその
どちらかに当てはめようとしてきました。しかしながら、これら二つは明確に分離される物
では無く、その間にアナログ的に多様な仕様が存在します。

舵誌にCOMET45Sがボートオブザイヤーを受賞した記事が掲載されましたが、ランナー
付きの本格的レーサーと紹介されました。しかし、これは本質を捉えていないと思います。
何故なら、確かにコマー社はこのヨットをレースとしても視野に入れています。しかしながら、
内装はかなりクルージング的であり、こんな本格レーサーがあるのか?と思います。
ランナーは標準では無く、あくまでスポーツとしてのヨットを意識しており、私が提唱するスポ
ーツクルージングにはとても合うと思います。つまり、クルージングであろうともスポーツ性は
無視しない。そういう本質があるという事です。このヨットにもっとスポーツ性を持たせる仕様
にするなら、マストを変え、ランナーを付けて、という仕様もできますし、或いはクルージング
色を強くしたいならば、メインファーラーも用意されている。ただ、基本的には昨今のクルー
ジング一辺倒のヨットでは無く、スポーツ性があるという事です。

世の中クルージング艇が多いのですが、クルージング派にもスポーツ的にセーリングしまし
ょうというのが私の提案ですが、このコマー社のコンセプトも同じです。ただ、オーナーのご希
望によっては、仕様をもっとクルージング寄りに、或いは、スポーツ寄りにと選べるという事で
す。物事はあるジャンルに当てはめる方が理解がし易いですが、その事によって本質を見誤
る事も事実です。

速いイコールレーサー?これも間違い。レースしないヨットが速く走ろうとする事が何故いけな
いでしょうか?速いという事は良い事、面白い事、エキサイティングな事です。それに速いと
いう事はスムースな走りですから、艇に無駄な抵抗が少ないという事ですから、艇にとっても
良い事なのです。ただ、重量軽減の為に強度をぎりぎりまで落とすようなのはいけません。
あくまでスポーツ的に楽しむのですから、しっかりした造りを土台に、しっかり走るのが前提
です。クルージング艇だから、頑丈であれば遅くても良いなんてのはナンセンスです。

しかしながら、速い遅いは相対的ですから、例え、重いヨットであっても、その中で最高の性能
を引き出して、滑らかに走るという事です。自分のヨットでより速くを目指す。それには、艇の
コンディションを常に状態良く保つ事が必要ですし、その上で、勉強して知識を得、それを実際
に試していく。そういう姿勢が必要だと思います。これがスポーツクルージングだと思います。
ひとつひとつの知識が積み重なって、よりスムースな走りができるようになるし、実践する事
で自分の動きが滑らかに、無駄の無い動きなるし、すべてが総合して、より速くなる。ヨットを
乗りこなす事ができます。そうやって自由自在に乗れるようになると、結果としてヨットは速く
なるのは必然です。遅いより速い方が良いでしょう?自分のヨットを最大限速く走らせる事が
できる人は、自分のヨットを熟知していますし、その方が安全でもあるのです。

船底が汚れていても気にしない人、セールがよれよれでも気にしない人、硬くなったシートを
そのまま使う。みんなクルージングだから良いんだと言われますが、もし、もっと速く走る事を
心がけて乗るなら、本当はもっと楽に乗れるようになるのです。そういうヨットに乗る方が本当
はしんどいのです。伸びきったセールで走るとヒールが大きく、決して楽では無い。より速く
走るという事は、より楽に走れるという事です。体力的に楽になって、尚且つ速いなら言う事
無いんじゃないですか?多くの方々が苦労して、遅く走ってる。だから、セーリングしなくなる
んでしょうかね。

レースとの違いは、勝つ為では無く、よりスムースに走る事ですから、秒を争うようなバタバタ
した素早い動きである必要も無い。ゆっくりでも構わない。でも、自分の動きはゆっくりでも、
ヨットは速くです。

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