第八十四話 セール

セールと言えばケブラー? 確かに、レースするならケブラーでないと勝てない。でも、スポーツ
クルージングならダクロンでも結構。ただ、伸びきってしまったセールはどうしようも無いので、
破れていないからという理由で使い続ける事は、より乗りにくい状態を作ってしまいます。どう
せクルージングだからと言って、セールはどうでも良いと考えるのは大間違いです。ちゃんとした
セールを使った方がより楽だし、速くも走れるのです。セールは主機、エンジンは補機です。
安くは無いので、つい破れるまで使いがちですが、セールは消耗品です。便利な物をつけるのも
良いですが、セールを御忘れなく。

さて、スポーツクルージングはレースをせずによりスムースに速く走ろうというコンセプトです。
その為にセールをコントロールしますが、深いドラフト、浅いドラフトというのは、よく車のギヤに
例えて、深いドラフトがローギヤ、浅いドラフトはハイギヤとか言われます。セールに揚力が発生
し、ドラフトの深い方がパワーがある。それは解る気がしますね。スタート時や波で失速した時、
微風の時などはドラフトを深く、スピードが上がると浅くと言われます。深いドラフトの方がトルクが
あるという事でしょうね。

ところで、揚力については解らない事があります。セールのカーブした外側を回る空気の方が遠い
距離で、内側を走る空気が距離が短いので、速い方が圧が低下して、そこに空気と直角方向に
揚力が発生すると言われますが、考えてみれば、セールは薄い生地ですから、内側を回っても
距離はそれ程変わらないはずではないか。それに飛行機は背面飛行できるのは何故か?理屈
に合わない。ところが、2001年に新しい発見があったのです。この理論は間違っていると言いま
す。セールは空気の流れに対して角度をつけてセットされる。曲げられた空気はセールに沿って
流れ、曲げられたセールカーブの中心の沿って圧がかかる。その反対に反力が働いて、その反力
が揚力だそうです。セールの外側を流れる空気が曲げられる。セールから離れた位置を走る空気
は真っ直ぐ走る。この二つの差が圧を下げ、圧が下がると空気の流れは速くなる。空気が速く流れ
るから圧が下がるのでは無く、圧が下がるから空気は速く流れる。セールの外側を走る空気は
セールの後端から内側に曲げて流れるそうです。揚力はこの空気の密度と流速によって計算でき
るそうです。解ったような解らないような。ひとつの実験として、スプーンの丸い部分に水道の水を
流す。スプーンの丸い部分がセールです。すると、丸い方側にスプーンは引っ張られる。という事は
セールの内側を流れる風では無く、外側を流れる風と、そのセールに関係なくもっと外側を流れる真っ
直ぐ走る空気との間が圧が低下して、セールに沿って走る空気の流れが速くなる。つまり、キール
にも揚力が同じように発生する。でも、海水の流れの方角がありますよね。

まあ、こんな事は知らなくても良いのですが、ちょっと面白かったです。新理論はともかくとして、この
セールカーブをうまくコントロールしなければなりません。ドラフトはセールの前後に対して中央から
やや前側にピークが来るようにする。揚力は風向の直角に働き、その抗力は平行に働くそうです。
とにかく、ドラフトの位置はその位置、このコントロールはセールのラフのテンションによってコントロー
ルされる。つまりハリヤードテンションです。テンションをかければドラフトは前側に移動し、緩めれば
後ろに移動する。ドラフトの深さはシートを緩めれば深く、引けば浅くなる。ジェノアの場合、ブロックの
位置の前後によって、前にやれば、リーチが閉じ、後ろにやればリーチが開く。風の強さは上部の方
が速くなり、つまり見かけの風で言えば、マストトップの方が風向は後ろ側に回る事になります。ヨット
が速く走れば、その分、見かけの風は後ろに回る。という事はヨットが同じ速さでも、風の強い上部の
方が風向は後ろに回る。という事は適正なアングルはシートを引いて、セールの下部を内側に引き、
上部側はブロックを下げて少し開く。こういう事になりますね。理屈では。風が強くなったら、上部から
風を逃がす。セールについては、まだまだありますが、ひとつひとつ紐解いていくのも面白いのでは
と思います。そして、解った事を実際に走らせて試してみる。

こんな事考えながら乗るなんて事は面倒くさい。はい、その通り。でも、遊びです。こんな事考えて遊び
セーリングして遊ぶ。知的ゲームですから、どうせなら、何でもかんでも楽しんでしまう。解ると、面白く
なるんです。そして、それが実践で体験できると、なおさら面白くなる。

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