第八十五話 TES 28の艤装


      

これから艤装の開始です。まずは、キールをラックに立てて、シーリング材を十分に塗布し、船体をクレーンで吊って、慎重にキールボルトと船底の穴を合わせながら船体を降ろしていきます。船内からもシーリング材をキールボルトにも必要に応じて塗布して、キールボルトを締める。何ら、技術的に難しい事はありません。ただ、しっかりシーリング材を塗布する事と、ボルトを締める事です。



それが終わったら、ラダーを人力で持ち上げて、穴に通し、落ちない様に中からピン留をする。ラダーは少し傾斜しているので、人力で合わせながらやります。これも難しい事でも無い。



次は、あらかじめ準備しておいたマストをクレーンで吊って、デッキに接触するまで降ろして、ステイ類を設置、調整はその後の事、これで、マストも立ちました。これら一連の作業は難しい事では無いので、何人かの人手は必要にはなりますが、作業としては、比較的簡単な事だと思います。

重要な事は、これから先の事、マストの調整、ラダーとステアリングとの連結、各部の動作の確認、水漏れは無いかとか、エンジンの点検等々です。また、新たにGPSなんかを設置したりもします。これらには、結構な時間もかかります。でも、これらを通じて、このヨットのどこがどうなっているのかが良く解るようになります。実は、新艇だからと言って、完璧ではありません。だからこそ、乗り出し前にいろんな調整が必要になります。これは全てのヨットが共通している事です。

新艇は組み立てて、調整して、そのヨットが持つ本来の性能を発揮できる様にします。さらに、オーナーは乗り続けながら、その経験から、より自分が使い易い様にアレンジをしたりします。それで、そのヨットをより良い状態へと近づけていく。それを楽しむというのもヨットの面白さのひとつではないかと思います。この事によって、ヨットは本当に自分のものとなっていくのだと思います。何も、新艇で来た時のままにしておく必要なんかありません。でも、アレンジするにも、経験と知識が必要ですから、自分とともに、ヨットも成長させるという感じです。これもヨットライフのひとつではないでしょうか。自分とヨットに一体感を感じていく。そうすると、セーリングが上手いかどうかよりも、自由自在感が生まれてくるのでは無いでしょうか。それこそが面白さかと思います。


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