第四十九話 人工社会


      

人工社会で生活する限り、我々がストレスを受けないはずがありません。それも進化して、より緻密になればなるほど便利でありながら、一方で僅かな不具合でストレスを受けざるを得ません。3分毎に来る電車が、1分遅れようものなら大変です。日本は特にそうですね。

5,6年前でしたか、イタリアの田舎の造船所に行った時の事、近くの駅で電車を待っていたんですが、こっちとあっちのプラットフォームにそれぞれに時計があって、見ますと示す時間が一致してい無い。それで自分の時計を見ると、これまた両方の時計共に時間が間違っていた。そんな処に住んでたんじゃ、多少電車が遅れたってストレスにはならないかも。

それは兎も角、こんな人口社会から逃れるわけには行かないんで、ある程度は覚悟しながら、便利を享受しますが、時折は自分自身のバランスを取る為にも、遊びが必要で、それもできるだけ人工的で無い方が良いかもしれません。それで海という自然に出ます。

海に出ますと、陸上の雑事を一切考えないで居られます。陸上で何があろうともです。それが良い。2,3時間セーリングに没頭していると、実に気分がスッキリします。陸上の問題は、その後、スッキリした頭で考える。別に問題が無くても、気分がスッキリすればそれで良い。それは何だか、人間が生き物として蘇る感じがします。

海の良い処は、陸上から離れる事です。これで気分が切り替えられます。そして自然ですから、コントロールできない事は百も承知、その時のそのままを受け入れるしか無いわけで、完全に受け身になる事、諦められる事だと思います。もちろん、次はこうしようというのはあるでしょうが、その時点は諦めです。多少のストレスは残るかもしれないが、例えば時化て大変な目にあっても、戻ってきた時の安堵感でストレスは消滅してしまうのでは無いでしょうか?ストレスの種類が違うのかもしれません。

それで私的結論を言いますと、セーリングするだけで良い。その時々の様々なセーリングをそのまま味わうだけで良い。これで十分という気持ちです。もちろん、ピクニックもしますが、おまけです。と言う事で、そのセーリングをより気持ち良くしていく為に、シングルが良い。これだと集中できます。友人が居ると少なからず気を遣う。そして自由自在にセーリングができる方が良い。

デイセーラーはその最も近道です。あらゆるフィーリングにおいてデイセーラーは優れていると思います。自由自在だって、最も簡単な操作しかしない自由自在感もありますし、あらゆる艤装を駆使したうえでの自由自在もあります。という事は初心者から超ベテランまで、各人の自由自在を味わう事ができる。そして、サイズもパフォーマンスのレベルも、自分に合うデイセーラーを選択する事ができる。見た目のデザインもクラシックあり、モダンあり。

人工社会はこれからますます便利になります。AIが如何に進化しようとも、使うのは人間ですし、常に合理的と言う事は無いし、何の理由も無く気が変わる事もある。機械の様な合理性が常にあるわけじゃない。だからこそ遊びがあって、セーリングを特にお薦めするわけですが、これは遊びというより、人間に心の余裕を持たせるものではないかと思います。向上心と夢は重要と考えられていますが、一方で、受け入れる、諦めるという余裕も必要なのではないかと思います。そのうちセーリングは人間の必須のひとつになるかもしれない?そう言えば、10年以上も前、不登校の中学生をヨットに乗せた処、学校に行くようになったとお父さんが嬉しそうに話してあった。大人になっても、爺さんになっても、生物である限り同じではないかと思います。そんな効果のあるセーリングに面白さを見いだせたら、これはもう最高のワイフワークになりますね。

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