第三十八話 ヨットに求めるもの


      

現代のヨットの多くは便利、快適を競い合っています。でも、そうでは無くて、ヨットに美しさとセーリングそのものを求める人達が増えてきています。現在、フランスでカンヌヨットフェスティバルが開催されていますが、そこに2019年モデルのイーグル38が出品され、注目を浴びています。

フリーボードは低く海面に近い、そして前後に長いオーバーハングを設けていますから、このデザインでキャビンが広かろうはずがありません。でも、そんな事より、何たって美しいし、カッコ良い、それにセーリング性能は高く、しかもそれをシングルで楽に操作できる。そこに注目が集まっています。

世の中が便利になったお陰で、暇が出来るかと言うとその反対で、現代人はますます忙しくなるばかり。だから、ヨットで遠くに出かけている暇なんか無いわけです。そんな忙しい世界のビジネスマンが、それでも、一時の癒しやエキサイティングなセーリングを求めるとなると、でかいキャビンより、むしろこういうヨットが良いと支持されてきています。何と言っても気軽にセーリングを味わえる。もし、泊まるにしても、1泊や2泊程度、それもたま〜にあるか無いか。それならこれで充分。むしろ、この方が良い。でかいキャビンなんかはセーリングの妨げになる。こんな考え方もあるのです。

どんなにエリートで有能なビジネスマンでも、心に余裕が無くなると人間として、ビジネスマンとしても能力を発揮出来なくなる。だからエネルギーを補充する為にも、いわゆる遊びが必要になる。身体は休息する事で癒す事ができますが、心はそうは行きません。ゆっくりしていても、心は目まぐるしく動き、止められない。常に何かを感じ、考えている。だから欧米のビジネスマン達の中では瞑想なんかが流行ったりしています。そんな心を癒すもうひとつの方法は、ゆったりというより、何か好きな事に夢中になる事。そのひとつがセーリングというわけです。

デイセーラーで走る、2,3時間、セーリング性能の高さも、夢中にさせる要因になっています。そんな短い時間でも、陸を離れ、海に出るという事が頭脳のスイッチの切り替えになり、そのうえでセーリングに集中する事で、大きな心のリフレッシュになる。

以前はこんな考え方は無かった。キャビンでお茶すれば良かったかもしれない。でも、それは陸上の延長に過ぎず、頭のスイッチは完全には切り替わらなかった。でも、まてよ、昔レースに夢中だった頃、確かに疲れもした。しかし、心は爽快だった。レースを再開するのは容易じゃ無いが、セーリングならすぐにでも出来る。だから、それがデイセーラーが注目を浴びる要因のひとつでもあります。欧米の有能ビジネスマン達はセーリングで心のスイッチを切り替える。彼らにとってセーリングはレジャーというより趣味なのです。

ところで、イーグル38のデザイナーはHOEK、この世界では超有名です。クラシック系のデザインが多く、得意な様で、スーパーヨットはもちろん、デイセーラーではエッセンスや、あのワリーナノも彼のデザインによります。イーグル54も彼のデザインに寄りますが、もうひとつのイーグル44は、これもまた有名なDykstraデザイン。ですが、この度、HOEKに寄ってリデザインされる事になりました。38や54と同じ様なルックスになる予定です。

クラシックスタイルでありながら、最新の技術で建造され、最新のセーリング性能を誇るイーグルヨット、誰もが気軽に、自由自在にシングルでも、高いセーリング性能を楽しむ事ができます。ヨットに対する新しい考え方、人生最後のヨットには、これかな〜と思います。

        

一方、アメリカではニューポートインターナショナルボトショーが開催されています。そこにはアレリオン33が出品され、これまた注目の的。時代は少しづつだが変わりつつある。キャビンの快適性からセーリングの快適性へ。


次へ       目次へ