第十一話 MORE EAGLE 38 技術編


      

ヨットの要はデザインと造船所が建造する船体の良し悪しにかかっています。その他の艤装、マスト、ウィンチ、ブロック、シート、セール等々は各メーカーによって製造され、どんな艤装かは重要ではありますが、それらがヨットの性能を決定付けるわけではありません。

オランダにベースを置く Andre Hoek氏(Hoekデザイン)はスーパーヨットのデザイナーとして世界的に有名なデザインナーですが、エッセンスやワリーナノ、その他カスタムによるデイセーラーも数多くデザインしています。そして2019年、このイーグル38を誕生させました。前後に長いオーバーハングを持つヨットは今でも活躍する約100年前のJクラスを思わせるデザインですが、38フィートにおいても見事なバランスを見せており、さらに、水線以下はモダンデザインと融合させ、美しさとその走りの高さを実現しています。

その美しいデザインを美しく走らせるのは造船所の技術です。最新のバキューム/インフュージョン工法は船体の軽量化と堅さの両方を実現できる最も優れた工法です。その上で絶妙に計算された船内のストリンガーやバルクヘッドが、さらに船体の剛性を高めています。この高い船体剛性こそが風や波の強大なプレッシャーに負けない船体を造り、実に滑らかな走りを感じさせてくれます。

標準セールはノースのノーダック、メインセール33.4u、ファーリングジブ26.4u(105%)、合計で59.8u、排水量が3,800kgですので、SADRは24.97です。排水量のうちバラストは1,350kg、吃水は1.25mと浅く、これなら座礁の心配も殆ど無い。もし、オプションの吃水1.85mにするなら、300kgの重量をさらに軽減する事もできます。また、セールについてはノースの3Diに変更する事も可能です。

マストを支えるステイはダイフォーム、ハリヤードやシート類にはダイニーマを採用、因みに、マストやブームはアルミですが、カーボンに変更可能ですし、メインファーラー等の選択もできます。つまり、オーナーがどういうセーリングを目指すかに寄って自由に選択できる幅を設けています。もちろん、標準で高い帆走性能である事には違いありません。そのうえでの事です。

 

さて、仕様は標準でシングルハンド仕様です。もちろん、このままでも充分良いんですが、ご希望であれば電動ウィンチ、これはハリヤードやシートウィンチだけで無く、メインシートウィンチも、ボタン操作でシートを引くだけで無く、出す事もできるキャプティブウィンチにする事も可能です。これは元々はスーパーヨットに採用されていたものです。さらに、ジブファーリング自体を電動にもできますし、バックステーやバングを油圧にしても良い。ここまで来ると、本当に楽で、操作パネルは写真の様にヘルムポジションのすぐ横の左右に配されますから、すぐに手が届きます。いわゆるプッショボタンセーリングです。

カーボンマストやノースの3Diセール等の採用でより高い帆走性能を求める事もできますし、メインファーラーにしてより楽に走らせる事もできるし、どういう組み合わせにするかはオーナーが自由に選択する事ができます。走りを楽しむのがデイセーラーですから、あとはどういう走らせ方をするかに幅を持たせています。

さて、エンジンはボルボのセールドライブとフォールディングペラですが、これはヤンマーに変更する事も可能です。このセールドライブとあいまって、マストはオンデッキなので、船内をドライに保つ事ができます。

世界の主流はキャビンのでかい沿岸用のクルージング艇ですが、欧米ではこれらの多くが別荘的に使われる事が多い中で、昨今の動きとしては別荘的使い方に重きを置きたくないという方々が増えてきており、ヨットに対する価値観の変化が出てきています。彼らはヨット以外の楽しみ方も持っている人達です。また、行動派の方々や、忙しい方なんかは短時間でも堪能できるデイセーリングに注目してきています。彼らにとってキャビンは重要では無い。キャビンヨットとは正反対の価値観です。

デイセーラーデザインにはクラシック系もモダン系も、その融合したデザインもありますが、どれもが実に美しい。何故それができるかは、レーサーでも無く、クルージング艇でも無いからです。レーティングや積載貨物、キャビンの広さ等々に縛られないからです。ですから、デザイナーはみんなデイセーラーをデザインしたがる理由がここにあります。デザインに自由度が高いからです。美しいだけではありません。帆走性能にも同じ自由度が与えられます。ですから、帆走性能もバリエーションが豊富です。様々なジャンルのヨットの中でも、こんなのはデイセーラーだけなのです。世界のデザイナーが興味を持たないはずがありません。

デイセーラーを選ぶ理由は様々、でもその筆頭はセーリングが好きだという事でしょうね。セーリングでしか味わえないセールフィーリング、他の方法で味わう事はできません。ならばより良いフィーリングを得たいと思うようになるのが人情です。加えて、それを自由自在に操船できるようになりたい。この自由自在はよりリラックスできる事を意味し、よりセールフィーリングを味わう事ができるようになる。デイセーラーはそういうスタイルの可能性を開いてくれた。グッドセーリング、グッドフィーリング!





次へ       目次へ