第二話 ピュアセーリング


      

これまで誰も純粋にセーリングを楽しんでは来なかったのかもしれない?セーリングはレースと旅、或いはピクニックという行為の手段に過ぎなかった。だから、楽しんできたのはレースや旅、ピクニックであり、セーリングそのものでは無かった。

デイセーラーの登場はこのピュアセーリングを楽しむという価値観の提案でした。簡単にシングルでも操作ができるデイセーラーは、ピクニックの時にでさえ、何と無くそのセーリングに意識が向いて行きます。それはセーリング性能もありますが、海面の近さや操作性等、デザイン全体が醸し出す雰囲気が乗り手の感覚に訴えかけてくるのでは無いかと思います。

競争も無い、旅での移動も無い、それでピュアセーリングはどこに意識を置いたかと言えば、セールフィーリングです。自分の操作とその結果であるヨットの動き、それと全体のバランスを身体で感じます。同じ風でも操作の仕方によってセールフィーリングは違ってきます。これは自分のヨットと、自分の操作レベルと、その時の風との総合によるフィーリングとなります。だから、自然に上手くなりたいと思う。

上手くなるには知識と技術と練習が必要ですが、上手くなれば、感覚もそれに応じて洗練されますから、より高いレベルでのセールフィーリングが感じられて、それを楽しみ、さらに上手くなる為に練習します。つまり、練習そのものがピュアセーリングそのものであり、生涯に渡って練習を続ける事になります。でも、その練習こそが楽しさであり、面白さになる。練習と思ってやるわけでも無く、乗って、走らせて、遊んでいる事が練習でもある。

多くの人達がセーリングを通じてレースや旅を楽しんできました。しかし、セーリングを意識的に浸り続けた人は恐らく居ない。だから、このピュアセーリングを何年も積み重ねて来たら、一体どうなるだろう?5年後、10年後に自分自身がどうなっているかですね。勝ち負けの無い、目的地の無い、ピュアセーリングに専心してきたら?

ところで、これならデイセーラーで無くても、クルージング艇でもできますね。是非、やってみて頂きたいと思います。セーリングはレースの専売特許ではありません。上手くなりたいとか、速くとか、そういうのもレースの専売特許ではありません。セーリングはあらゆるヨットの根底を成すものだと思います。

より良いセールフィーリングを得る為にはヨットを良い状態にメインテナンスしておきたいし、操船も上手くなった方が良い。また、目の前の海域でできるからこそ、短時間で良いし、何度もできるし、と言う事はその都度、いろんな風をも体験できる事になります。その結果、違いの解るヨットマンという事になりますね。これって、結構楽しくて、ただ真っすぐ走っているだけでも、解る人は解るんですね。感じ取ると言った方が良いかもしれません。

ヨットの楽しみ方はいろいろです。好きな様にやって楽しめれば良いんです。ただ、その中のひとつの候補としてのピュアセ―リングの提案です。ある日のピクニックのつもりが、何と無く、セーリングに意識を集中してみたら、感覚さえ違ってきた。そこから始まって行くのかもしれません。

クルージング艇の流れがどんどん快適を目指す一方で、これに逆らう様にセーリングにこだわり続けたデイセーラー、さて、どっちが面白いのか?

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