第九十九話 セーリングを学ぶ


      

初めてヨットに乗せてもらった時は、大きく傾いて、サイドデッキが時折波に洗われる状態だった。ちょっと怖さもありましたが、オーナーの平気な顔を見ると、ヨットというのはこんなに傾いても大丈夫なんだな〜とも思った。それからは吹かない時も吹く時もあった。

海に出るといろんな状況に遭遇し、吹かない時でも部分的にブローがあり、最初は舵操作で対応していたのが、やがてブローに合わせてシートを出して対応する事を覚えた。舵はできるだけ切らない方が良い。何故なら、舵は抵抗を造る事だから。

セールには形状と角度がある。それらを調整するのが、各艤装という事になるが、考え様によっては形状と角度の二つしか無い事になる。さらに、セーリングそのものは上りで角度を稼ぐセーリング(下りも同様)と目標物に一直線かの、これも二つしか無い。単純と言えば単純です。

しかしながら風が変化するもんだから、その単純さがかなり複雑になってくる。艤装は見ればその動きが解ってセールにどう影響を与えるかも解ってくる。しかし、複雑な動きをする風にどういう角度でどういう形状で、どの程度調整すれば良いか?これは経験を積んで習得するしか無いが、それを解明していくのがセーリングを楽しむという事だと思う。

GPSの登場で、真っ直ぐ走っているつもりが実際は斜めに走っていたりする。ヨットのコンパスとは走る角度が違う。オーバーヒールはそれを助長するし、もちろん潮流もある。じゃあ、それを修正する様に走るには走る角度を調整する事になる。

セーリングは真っすぐ走るのが基本だから、もちろん意図的に曲がる以外はですが、そうなると舵操作にも気を遣う。波もある、風もある、後ろを振り返ってみると結構ジグザグに走っていたりもするが、これじゃあセールをどこに合わせるのかという事になる。

風向風速計とスピード計があると、目視で確認できるので判断がし易い。今の操作でスピードが上がったのか否か?その他ヒール角度とかの動きの変化は?でも、それ以上に重視したいのは、自分の感覚です。実際の動きと同じぐらい自分の感覚にも注意を払っていると、スピード以外のいろんな感覚を拾う事ができる。もっと上手くなって、感覚だけのセーリングができたらどうだろうなんて思ってしまう。

でかいジェノアが当たり前だった頃、タックを繰り返すのは大変だった。ところが、ある人、タック後のウィンチをちょいと回すだけで完了していた。上手い。セールの切り替えしと舵操作が実に調和していた。舵は無闇に切れば良いというものでは無い事が解った。後に、ジェネカーのジャイブにも同じ事が言えた。

ヨットに寄ってセーリングは全然違ってくる。スピード、安定性、最も違うのはフィーリングです。走る感じが違う。舵を切る感じが違う。当然ながら自分の好みのセーリングもある。だからセーリングはスピードだけじゃない。競争なら別だが、セーリングならセールフィーリングも重要だと思います。

速いのはもちろん面白いが吹かない時でも、微軽風対策としての第三のセールを使うと、快走とまでは言わないものの、それなりの面白さが出てくる。そして、強風は風を逃がし、リーフをする。これらもセールトリミングの範疇です。

いろんな体験からいろんな工夫が生まれ、ひとつづつ解決していくと、自分のヨットが隅々まで解って来る。そうなると真にヨットを自分のものにする事ができ、それが感覚的にも解って来る。自由自在になれて、気軽になれて、臨機応変にも対応ができるという自信も生まれて来る。それこそ感覚セーリングが増してくる。理想は吹く時は吹く様に、吹かない時は吹かない様に、それぞれのセーリングを工夫しながらも、あるがままに味わえる自分になれる事。

セーリングは学ぶ処に面白さがあり、学んだ事を楽しむ。と言う事はより多く学べば、より多く楽しめる事になる。レースなら勝った負けたが話題になり、クルージングなら旅で遭遇した経験が話題になる。その点、セーリングを楽しむ者は自慢話はできないが、洗練された感覚を獲得できる。

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