第五十五話 造船所の差


      

造船所は船体しか造りませんね。その他は全て他のメーカーから供給され設置するだけです。と言う事は造船所の差は船体の差、そして、それに見合う装備品を選定して、その設置の仕方にある。安いか高級か、セーリングパフォーマンス重視かクルージングか?全てはそこのバランスをどう取るかになる。

カーボンやエポキシが良い素材だとしても、クルージング艇に必要か?これらはハイパフォーマンスを目指すヨットには効果的だが、クルージング艇には、そういうハイテク素材より、構造とそれに携わる職人の腕と真面目さ、誠実さの方が重要です。昨今は量産化の為にできるだけ職人の手を必要としない様に、機械的に造るヨットが多くなった。しかし、職人の手間をかけたヨットは、その腕さえ確かなら、やはり良い。

先日進水させたポーランドのTES28は、あらためてそういう事を思わせてくれました。ハルはFRPの単板で職人のハンドレイアップ、デッキは上部を軽くする為にサンドイッチ構造、バルクヘッドは船体にきちんと積層されておりパテ接着では無い。さらに、ストリンガーはモールド成型の接着では無く、きちんと積層され、バウキャビンやアフトキャビン、メインサロンのソファーのクッション下は細かく仕切りが造られ、船底に積層されている。こういうのは船体の強度にかなり貢献すると思います。そして、これらの作業が実に丁寧に行われている。ここが重要です。

ハイテクな素材を使っているわけでは無い。高級艇というわけじゃない。それより、構造と職人の丁寧な作業が、このヨットの内部的なグレードを高くしています。実は、この造船所はベストコンストラクションという賞を受賞しました。こういう表面の見た目では解らない構造や工法はとっても重要だと思いますね。ヨーロッパは流石、こういう地味な賞もあるんですね。

もちろん、見た目のデザインも当然重要です。しかし、それだけじゃない。構造、工法、職人さんの腕、彼らの真面目さ、これらは基礎を成します。でも、完成してからじゃあ解りにくいので、ブランドから判断する事になるかな。サイズやデザインは違っても、同じ様に造りますから。

でも、こういう差って何処に出るかと言いますと、船体の硬さはフィーリングに出ます。年数が経ってくると、船体には強大なストレスがかかりますから、船体が捻じれたりします。そうなると水漏れの原因になったり、造りにずれを生じたり。パフォーマンスが落ちたり、いわゆる良い造りかどうかとなります。豪華じゃ無くても良いから、基礎造りはきちんとしたものを選びたいですね。

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