第二話 バランス

船体の重量に対するセールエリアの大きさ、そして、それに対して、そのヨットが持つスタビリティーの高さ、そのバランスをどう取るか? 風は微風もあれば強風もあります。微風だけとか、強風だけとか一点に絞るのであれば、比較的デザインは容易になるのかもしれませんが、そうも行きません。

それで、これをできるだけ解消する事を考えます。理想的には、微軽風でも比較的良く走り、強風にも強いヨットです。それにどれだけ近づく事ができるか? それがデザイナーの腕の見せどころという事になると思います。

ただ、強風になればリーフして対応するとか、微風になればコードゼロとかジェネカーとかを使うという対応の仕方はあるわけですが、でも、ジブとメインでどのようなパフォーマンスができるかが基本になり、セールを増やしたり、或はリーフしたりは、その基本能力を超えた場合の対応になりますから、基本性能が重要になります。

性能的に高い、つまり速ければ良いかと言いますと、レースを主体とするので無い限り、そうとも言えません。例えば、非常に速いヨットというのは、それなりの対応をしてやらなければなりません。重くて遅いヨットでは、ほっといても良い事も、速いヨットはそうは行きませんから、どれだけの操作をするつもりがあるかによっても選択する性能も違ってきます。

デイセーラーでは、この様な様々な要因を考慮し、その結果、現在のデイセーラーというコンセプトが生まれました。シングルハンドを可能にする事。これは恐らく、今までには無かったのではないか? やりようによってシングルで可能であっても、シングルを目指したデザインというのは、これまでには無かったと思います。

セーリングを楽しむというコンセプトにおいては、やはり高い帆走性能が求められます。セーリングそのものを楽しむわけですから、鈍足では面白くありません。しかし、シングルである事が条件になりますから、シングルでの操作性が重要であり、また、スタビリティーにおいても、高いスタビリティーが求められます。

従って、デイセーラーが行き着いたデザインというのは、幅を狭くして、あらゆる艤装に手が届くようにし、パフォーマンスを上げる為に排水量を軽くする。それは構造と工法によってなされ、さらに、キャビンを敢えて狭く、低くし、重心を下げ、これは排水量の軽減にも繋がります。そして、バラストは重く、だいたい40%前後、さらに、船体は強固にして、セールフィーリングにおいても滑らかさを実現しています。

これらはデイセーラー共通の考え方ですが、同じデイセーラーでも異なるのが、排水量に対するセール面積の比率です。これは直接パフォーマンスに関わり、デイセーラーの中でも、これはいろんなバリエーションがあります。

デイセーラーというコンセプトは、どのヨットにおいてもシングルハンドができ、安定性も高い。しかしその選択の違いは、もちろん見た目の違いにおける好き嫌いはありますが、パーフォーマンスの違いにあると思います。セールエリア/排水量比において、約18〜30オーバーまで。一般的には、この数値が18〜23程度において、充分セーリングを堪能する事ができると思います。これを超えるともっとスポーツ性が強まってきます。25オーバーでは、一般のレーサークルーザーでもレーサー寄り、30オーバーなんかは完全にレーサーの性能に匹敵します。

この数値は何かと言いますと、数値が高い方が排水量に対してセールエリアが大きい事を意味し、よって、数値が高い方が速い事になります。それは弱い風において、速いし、弱い風では良いのですが、強い風でも当然速いのですが、速いだけにその操作においてそれなりの対応をしなければなりません。

セーリングは何もしないで走るのでは無く、操作を楽しむ事もセーリングの要素ですから、従って、どの程度の操作をするつもりがあるかという事が考慮されなければなりません。それが選択の違いになると思います。操作をどんどんやるつもりがあるなら、その分速いヨットに乗れて、高速を味わ得る事になります。もちろん、強風時の事です。微軽風なら、どんなヨットでも、楽に乗れるでしょう。でも、風が強くなればなるだけ、速いヨットはその対応が要求されます。これはデイセーラーに限らず、一般ヨットでも言える事ではあります。

全体のバランスを考えて、建造されるヨット。スタビリティーが低いと対応すべき事はもっと多くなるし、船体が強固でないと、滑らかさは感じない。セールが小さいと走らないし、大きいと対応すべき事も多くなる。全てはどこでバランスさせているかになると思います。そして、それはどこまで求めて、それに対してどこまでやるかになると思います。

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