第九十九話 多機能

世の中に全く新しい、それまでには全く無かった物が出現する事は、そう滅多にあるものでは無いと思います。多くの場合は、既存の物を進化発展させる物です。電話器が発明された時は画期的だったと思います。それが家庭に普及し、さらに携帯電話となる。これにしても、発展型です。

その携帯電話の本来の機能である電話する事と携帯性が確立されたら、今度はその発展として多機能になっていく。今日のスマートフォンのほんの一部でしか無い電話をするという機能は、当たり前過ぎて、当然ではあるのですが、主役は他の機能に移っていったかのように見えます。

しかし、やはり電話機能こそが主役であり、もし、この小さな携帯性のあるコンピューターに電話機能が無かったとしたら、これほど広がる事は無いのではなかろうか?つまり、どう発展しようが、それは電話器なのであります。電話器でなければならない。

ヨットの発展を見ますと、ヨットの主役はセーリングにあると思います。セールが無いなら、ヨットではありませんから。そして、そのセーリング性能の進化が図られ、さらに利便性も発展していきます。ここまでは良い。そこから、セーリングとは直接関係のない多機能性が出てきます。これはこれで、発展の常道だろうと思います。

しかし、スマートフォンに電話機能が無かったらと同じで、もし、セールが無かったら、もはやヨットでは無くなります。機能性や利便性を考えますと、ボートの方に軍配が上がると思います。でも、セールは無くす事はできない。言わば、スマートフォンならぬ、スマートヨットみたいなものです。

つまり、ヨットが進化し、どんなにスマートになろうとも、セーリング機能を外す事はできません。スマートフォンはどんなに複雑になろうとも、少なくとも、誰もが電話機能を使えます。だから、普及している。その電話機能が重要であります。ですから、スマートヨットになって、どんなに便利になろうが、セーリングという機能は最も重要なのであります。

便利で簡単になる事は大歓迎であります。ですから、セーリングが便利で簡単に誰もが堪能できるなら大歓迎なのです。ところが、セーリングという機能は、セーリングさえできれば良いというわけではありません。もちろん、それで良いという方も多いかもしれませんが、電話器と違って、セーリングの質を問うという事もあります。それは、ヨットが遊びだからです。仕事に使うなら、そこまでは問わない。機能さえしてくれれば良い。しかし、セーリングは個人的な遊び、趣味であります。だから、走れば良いというレベルで納めるわけにはいきません。

ですから、多機能、便利、大いに結構なのですが、セーリングの質も忘れない。そこがヨットの主役ですから。これをなおざりにしますと、ヨットである意味が少し薄れていくのではないでしょうか?

クルージングの旅にエンジンで行く。これでも良いと思っています。何も、セーリングで行かないとヨットじゃないとは言いません。でも、セーリングする時には、やはりただ動いているだけでは無く、いかにを問い、セーリングの質を求める遊びをしてはと思います。その方が面白いと思うからです。

ピクニックというセーリングもあって良い。しかし、毎回それでは満足できない。そこにセーリングをいかにと問う事によって、楽しさばかりか面白さを生み出す事になると思います。

つまり、スマートフォンにとって、電話機能は十分なのであります。しかし、スマートヨットのセーリング機能を十分堪能しているかが問題かと思います。これを堪能し、自分の物にする事によって、ヨットのスマート性はもっと役に立つようになるのではなかろうか?

つまり、ヨットのセーリング機能を堪能せずに、他の機能で、満足できるのだろうか?便利、簡単はおおいに歓迎ですが、やはり最終的にはセーリングを問い、堪能する事があって初めて、ヨットの他の部分も活きてくるのではなかろうか?

何を言いたいかと申しますと、もっとセーリングを堪能していただきたいという事です。何はともあれ、セーリング、何を差し置いても、まずはセーリング。そこを中心に、他の機能も楽しむ。主役がセーリング以外になる程、まだセーリングは堪能されてこなかった。セーリングが当たり前になってこそ、他の機能は活きてくるのではなかろうか?それに、セーリングはヨットの専売特許、ヨットでしか味わえないのですから。それも、いろんなヨットにそれぞれのセーリングがあります。自分のヨットのセーリングはどんなものか、その性能を引き出すべく、セーリングを味わっても良いんじゃないでしょうか? 

長い事ヨットやって、セーリングを堪能してきたからこそ、ヨットライフの充実感を持てるのではなかろうかと思います。

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