第百話 サイズとボリューム

最近はでかいヨットが売れているそうです。バウスラスターやスターンスラスター、或は、360度回転するエンジンのドライブの御蔭ではないかと思います。これで、誰でも、簡単に出し入れができる。この事は確かに大きな要因です。出し入れは、誰もが通る最初の難関でした。でも、この御蔭で、誰もが簡単に扱える。でかいヨット程簡単になる? 横歩きするヨットなんて、昔は考えられなかった。

これはこれで良い。簡単に出し入れができるなら、これで、最初の難関はクリアーできる。実際の様子を見ても、実に簡単に出て行く様子が伺える。さて、次は何か?マリーナを出た後の話です。

こういうでかいヨットには、電動ウィンチが付き物。それにオーパイ、GPS等々は当たり前。だから、ボタンを押して、セールを展開する。あるオーナーは、このヨットはセーリングに入ったら何もしなくて良いんですと、自慢気に言われた。それゃそうでしょうね。オーパイをオンにして、広いコクピットに座って、おしゃべりや飲み食いが楽しめる。時々、ウィンチのスイッチを押せば良い。そのうち、電動ウィンチもリバース式が採用されるようになるだろうから、シートを引くも、リリースもボタンひとつで良いようになるはずです。ウォッチさえしていれば大丈夫という事になる。

これで、ゆったりピクニックセーリングを楽しめる。でかいので、そこそこは走るはずだし、最高の気分。これぞまさしく優雅なセーリングであろう。これが一般的に、できればこうしたいと思う典型ではなかろうか?

そこいくと、シングルだセーリングだという人はマイナーな存在になる。何でも手動でしたがるし、舵から伝わるフィーリングがどうこうとか、セールトリミングがどうとか、彼らはマイナーであります。何故なら、この両者のセーリングは根本的に違うし、一般の希望とは違う。

ヨット市場を広げるのは、前者的考え方。後者は前者に言わせればマニアックと言うかもしれない。ヨットが便利で簡単になればなる程に、セーリングをマニュアル式に楽しむのはマニアック的に見える。ただ、ちょっと気になるのは、前者の楽しみがずっと続いていってほしいという事です。それが続かないと、そのうち動かないヨットになってしまいかねない。これだけは避けてほしいと願います。できれば、クルージングをもっと楽しんで頂きたい。港から港へ、長旅を満喫して頂きたい。

一方、マニアックとしては、やっぱりセーリングにこだわりたい。そこしか面白さが見いだせないから。たまにはデートセーリングも良いが、やっぱり、何かを習得して、その面白さを味わいたい。簡単な事は良い事ではあるが、簡単になればなる程、それ以外の何かが無いと、面白くないから。
それで、5年、10年と続ける事の方が難しそうに思える。

これからのヨットは、二つに大きく分かれていくと思います。ひとつは便利を享受して、ゆったり、爽やか、というのと、マニアックに、セーリングを追求していくのとの二つです。その差はこれからもっと大きくなって格差を生み出す。最近は格差が流行っているそうですから。そして、どちらを目指すかは自由です。

ただ言える事は、長く続けるには、しょっちゅうやりたくなるには、やはり面白さがそこに必要だと言う事です。楽しさだけでは続かない。何しろ、天候は気まぐれに変化して、その変化をできるだけ面白さに変えようとするか、或は、そういう場合は避けるかしかないから。考えてみたら、年間を通じて、理想的な天候はあまりない。程良い風が吹くなら、セーリングは最高になるし、しびれるようなセーリングが体験できるかもしれない。微風だったら、微軽風用のセールを展開する事もできるし、強風になったら、しんどいかもしれないが、上手くなれば、それもスリルを満喫できるかもしれない。だから、どんなに便利になろうが、やはりセーリングなのであります。セーリングに勝る面白さは無いと思います。それがヨットなのだから。

シングルでセーリングを堪能しようと思ったら、個人差はあるが、まあ、やはり30フィート前後かな? デイセーラーには、40フィートを越えるものもあるが、多分、そこらは、クルージング的要素を付加しているように思える。それはそれで良い、日常はセーリングを堪能できるし、クルージングするなら、もう少し足も伸ばせる。でも、それ以外なら、やはり30フィート前後は感覚的にフィットする感じです。個人的な感想ですが。

先日44フィートのデイセーラーに乗りましたが、これもなかなか面白かった。まてよ、44フィートでも、違和感が無かった。これは恐らく船体のボリューム感ではなかろうか?この44フィートはデイセーラーの特徴である、狭い幅と、低いフリーボードで、圧倒されるボリューム感は無い。だから、44フィートという長さにも拘らず、気楽に乗る事ができたと思います。という事は、サイズというより、ボリューム感かもしれませんね。

最近の沿岸ヨットはサイズは30フィートでも、幅は広いし、フリーボードは高い。だから圧倒的ボリューム感があって、なかなか気楽にとはいかない。だから、バウスラスターなのか、なる程。これからは、サイズが何フィートというより、ボリュームで判断した方が良いかもしれません。長さよりも、幅と水線から上の船体のボリュームです。このボリューム感の影響は大きいような気がします。出し入れはもちろん、セーリングにおいてもです。

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