第五十六話 部分と全体

何かの作業をする時、その部分だけを見て作業をする事があります。特に初心者の方には多い。
例えば、メインセールを上げる時、ひたすら上げる事しか見ていない。でも、実際に誰もが経験するかと思いますが、上げる事だけにとらわれると、レージージャックにバテンが引っかかったりする事はよくありますし、風向が変わったりする事もある。慣れた方は、上げる事を見ながらも全体をも見ている。レージージャックも見ながら、引っかかりそうな箇所は、状況をみて素早く通過させる。

舵を持ちながら、ウィンチ操作をしたい時、自分の体がちょっと動いただけで、舵が動く。よって走る方向が少しずれる。気持ちはウィンチしか見ておらず、そこに気づかない。これもよくあります。

何かひとつの動作をする時、必ず全体の動きも同時に見ておかなかればならない。全体は常に動いているから。その全体を見ているから、ひとつの動作が全体に対してどういう影響を与えるかも同時に見る事もできる。

各部分で全体を構成しており、一部を動かすと全体が変わる。メインシート、ジブシート、トラベラーやバング、いろんな操作がありますが、その操作をすると同時に全体の動きも見ている必要がある。だから、舵だけ集中してもいけませんし、それだけに、シングルの場合は鋭すぎる舵は、ちょっと大変かもしれない。鋭い舵は歓迎しますが、何事も過ぎるのは困る。クルーが要るなら、舵だけに集中していて良いのなら、その限りでは無いかもしれない。しかし、舵を持つ人は全体も見ないといけない。

あるレーシングヨットには、何も作業をしない人がひとり。彼は作業はしない。でも、全体を見て戦術を指示する役目。だから、各人は自分の作業に集中して良い。指示は彼が出す。でも、普通は、こういう人は居ない。だから、自分で、部分と全体を見なければならない。

こういう事に慣れると、全体の動きが良く解るようになる。見るべき処はたくさんあるから、たくさんの事に同時に気がつく事は難しい。しかし、徐々に解ってくる。全体が見えてくる。微に至るまではなかなか難しいかもしれないが、でも、大まかでも全体が解ってくる。全体が解ってくると、後は、もっと慣れて行けば、洗練されていくからもっと解る。解れば、もっと面白くなる。

シートやバングやいろんな艤装がありますが、今の状態で、どれをもっと引いたらとか出したらとか考えます。セーリングとはそういうゲームです。そうやって遊ぶゲームです。例えそれがベターでは無かったとしても、改めれば良いわけで、遊びながら、ゲームしながら、学びもしていく。

これらを心からリラックスして、楽しむ事ができるならば、きっと面白さに出会うことができる。だから、身も心も馴染む事が最優先の課題だろうと思います。その為には、経験と、部分は全体の一部である事を常に認識しておく事かな? 技術レベルよりも、馴染み感であります。

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