第四十八話 ニッチ

いわゆる隙間産業であります。マリン関係がニッチなら、ヨットはさらにニッチで、デイセーラーというとそれまたニッチの代表格。まあ、何故そんなニッチに入り込んだのか? とちょっと考えます。
しかしながら、好きなのでしょうがない。レースがどうこうというより、セーリングそのものをいかに楽しむか、慣れた感じで操作して、腕を上げながら、いろんなセーリングを味わう。そういうのが好きなのでしょうがない。

速いというのは誰もがレースを考えるかもしれない。しかし、レースである必要は必ずしも無いと考えます。単独走行であれ、気持ちの良いセーリングを目指し、その味わいは格別なものがあります。そこにスピード以外にも滑らかさやレスポンスや安定感等、感じる処はたくさんあります。

デイセーラーを取り扱うようになって、実は年数的には随分長い。我社の歴史分ぐらいはやってます。ですからもう17年ぐらいか。先日の舵誌にデイセーラーが確立されたような記事を読みましたが、それはどうかな? まだまだ。世の中はクルージングとでかさと、快適装備にある。

でも、やはり、どう考えても、ヨットはセーリング第一であろう。別に速いという事だけをさしているわけではありません。スピードも含めて、操作性、レスポンス、安定性、そして機敏さ、滑らかさ、追ってもキリはないかもしれないが、やはりセールフィーリングの良さは何とも言えません。

後は、これに対してキャビンをどう捉えるかだろうと思います。それで私としては、デイセーラーとハイパフォーマンスクルーザーという選択をしています。これらは決して安くはない。量産艇が価格でグイグイ押してくる中、やはりセーリングに重点を置きますと、価格は安くはならない。品質に重点を置かないとニッチは量産には勝てない。これは今月の舵誌にも同じ事が書いてありました。

ヨット建造において最もコストがかかるのが船体だろうと思います。量産によって艤装品の調達コストは安くはなる。しかし、船体コストは、その構造や工法、素材、等々によってコストが違ってくる。最も違うのは、船体構造と工法ではなかろうか?

そんな事を考えると少量精算にならざるを得ない。よって少量で生きるには、品質勝負でいくしかない。その中で、セーリングを重視したヨットがヨットとして実に面白いし、いい気持ちになれる。

そんなこんなでデイセーラーとハイパフォーマンスクルーザーを扱ってきました。たくさんは売れませんが、舵誌が取り上げてくるようになったという事が、少しは違う。10年前は全くそういう事は無かったのですから。

世界を見れば、デイセーラーはやっぱりニッチです。でも、市場がでかいから、世界のあっちこっちの造船所でデイセーラーが建造されるようになってきました。日本には入っていないのが、まだまだたくさんあります。世界市場でどんなデイセーラーが出て来るか、いつもチェックしておりますが、またひとつ、またひとつと生まれていきます。

多くの場合、年間建造定数が100を超える事は無い。逆に言うと、これを超えていきますと、例えば数百とかなると中途半端かな? 量産にはなれなくて、少量にもなれない。だから、量産に進むか、小規模でとどまるか? どっちかしか無いような気がします。それによってヨットが違ってくる。

だから、いつも見るのはヨットのデータと年間建造艇数です。これによって、はずす事は殆どありません。少量なら入念に造るし、そうでないと少量の意味がない。後は、データ、工法、構造を調べ、後はコミュニケーションによってさらに調べます。まあ、これでだいたいのヨットなりが解る。

コミュニケーションは特に大事で、その造船所に対する質問に、どういう返事が来るか? レスポンスの早さも重要ですし、また、誰も自分のヨットを悪く言う人は居ない。しかし、その中でもいろいろあるもんです。そして、さらに、海外での評価を探る。

デイセーラーでは、新しいセーリングの追求の仕方が生まれたという評価があった。アレリオンに対するものですが。やっぱり評価の仕方が違う。評価する人も進化していかなければなりません。全ては進化します。例えトラディショナルなデザインであっても、見た目は変わらなくても、中身はどんどん進化しています。我々業者も進化しなければ生き残れませんね。

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