第八十話 ヨットの行方

昔はクルージング艇と言っても、今程キャビンは広くは無かったし、レース主体では無いが、クルージングとセーリングの両方を楽しめるという観点で建造されていました。その後、クルージング艇は独自の進化をしていきます。

ファーリングジェノアが当たり前になり、コクピットにドジャーが付、オートパイロット、GPSが当然の装備として設置されてきました。そして、キャビンは大きくなり、コクピットも快適な空間と変化してきました。

クルージング艇の進化は、より快適を目指し、その方向に進化し続けています。つまり、昔のクルージング艇とは違います。動く別荘的な様相です。

こうなりますと、一方では違う様相も出てきます。それはセーリングを遊ぶという事です。昔のクルージング艇がふたつに分離してきたと考えても良いと思います。遊びには二種類あって、ひとつはクルージングでの快適さ、もうひとつはセーリングそのものを遊ぶという事になります。

どちらも進化し、より快適空間であったり、より高性能であったり、どちらも、昔のヨットより、その目的においては、より快適、より面白いという風に進化してきたと思います。これはクルージング艇の細分化、専門化と考えます。遊び方が違うという事になります。

これはもっと進んでいきます。物は淘汰されて無くなるか、存続するのであれば進化するしかありません。ですから、ますますクルージング艇はより快適性を求め、多分、それはマイホーム的快適を目指すのではないかと思います。

その一方で、セーリングを楽しむヨットは、セール操作の容易さを求めつつ、あくまで操作しないで良いという事では無く、操作をも楽しみながらセーリングを楽しむという事が進んでいきます。その兆候は既にデイセーラーに現れています。

今後、ますますクルージングとセーリングは分離していくと思われます。御存知の通り、バウスラスターとエンジンを使いながら、横歩きするクルージング艇も出てきました。大型艇でも、マリーナの出し入れが簡単になってきます。走っても、電動アシストがあり、オートパイロットがあり、ナビゲーションはGPSがあります。こうなりますと、昔より遥かに簡単に、どこへでも行けます。最近のクルージング艇の試みは、コクピットからキャビンに入る際の段差を出来るだけ低くして、一体化したような広い空間にする事です。ちょうど、自宅のリビングとベランダのようです。

一方、セーリングの方はデイセーラーにみられるシングルハンドの容易さと、帆走性能です。こちらはセーリング主体です。低い重心と硬い船体、より帆走を快適にしています。つまり、同じ快適を目指すも、クルージング艇の快適とセーリングの快適は非なるものになります。

このふたつが、ますます分離していきますと、その間を埋めるものが出てきます。ひとつは従来からありますレーサー/クルーザーです。今日のレーサークルーザーは、キャビンも充分に充実していますし、セーリング性能も高い。ただ、シングルというわけにはいきませんが。

もうひとつはデイセーラーの大型化です。それによって、キャビンを確保しようという事です。これは縦と横に広がるのでは無く、長さを大型化する事によって、重心の低さは確保しながら、前後にキャビンを取る為に長くなってきました。もはやデイセーラーとは言い難い40フィートや50、60まで出てきました。それでも、セーリン主体である事には違いありません。

昔はレースをしないのでクルージング艇と言ってきました。それでも、クルージングもセーリングも遊んできたわけですが、それがレースはしないとは言っても、では、クルージングですか、セーリングですか、という選択になっていきます。そして、それぞれが、それぞれの快適さを目指して進化していきます。という事は、我々の使う側のコンセプトはますます明確にしていかなければならないのかもしれません。

体の具合が悪ければ病院にいきます。でも、体のどこが悪いのかで、専門病院に行く。それと同じで、昔の町医者で、何でも診てもらったのとは違ってきています。これが進化しますと、ますます細分化されていきます。将来、クルージング艇ももっと細分化されるかもしれません。セーリングも細分化され、専門色が強くなるかもしれません。それはコンセプトが明確になる事を意味しますし、そのコンセプトにおいては、より快適になる事になります。という事は、我々も、もっと自分の遊びを知って、自分に合う方法、コンセプトを明確にしていく必要性が出てきます。それには、今、遊びながら、それを造る必要性がありますね。でないと、何を求めているか解らないと、選択が間違う可能性がでてきます。面倒くさかろうが、何だろうが、進化はそういう風になってます。

ところが面白いもので、一方が複雑になりますと、必ず、その反対のシンプル化が顔を出してくる。
複雑なスマートフォンが流行る中、そんな物は要らん。電話さえできれば、せいぜいメールぐらいできれば充分という人達も多くなる。面白いものです。それが進むと個性化も出てくる。

でも、ヨットの今は、クルージング艇とセーリングヨットの分離にあると思います。

次へ        目次