第三十話 外洋艇

ヨットにはもうひとつ、外洋艇というジャンルがあります。クルージング艇ではありますが、我々が最も良く目にする沿岸用とは、まったく違うジャンルと考えた方が良いと思います。走る航行区域が全然違ってくる。それこそ、命を預けるヨットです。全天候型でありますね。

しかも、荷物もたくさん積み込みますから、軽いヨットでは無く、そこそこの排水量も必要です。頑丈さ、直進性の良さ、そして多少鈍いぐらいが良い。ほっといても、真っ直ぐ走ってくれて、細かい操作なんかしなくていいぐらい。レスポンスの良さとか無い方が良い。ゆっくりしたモーションが良い。
頑丈なだけでは無く、疲れないヨットが良い。

それで、昔はロングキールで、船艇は鋭角な形状を持たせて、直進性も良いし、波にも柔らかい。
でも、無寄港で走るならいざ知らず、どこかに寄りながらでしょうから、何も記録を造りたいわけでは無いでしょうから、その後は、有名外洋艇ビルダーは、セミロングキールを採用してきました。
ロングキールのメリットをそのままに、キールとラダーを分離して、そこの間に水流が通る。これだけでも、コントロールがし易くなった。さらに、日常セーリング性能をも考慮して、フィンキール艇もあります。

良くスタビリティー消失角度とか言う話が出ますが、これは外洋を走るヨットに重要で、最低120度とか言われます。でも、一般沿岸用とかセーリング用なら、消失角より、通常セーリングでの腰の強さの方が重要ではないかと思うのですが。

まあ、それは兎も角、嵐になっても逃げ場が無いとしたら、耐えるしかない。そういう事をも想定されたヨットですね。一般的には、カッターリグが多い。大きなセールを1枚より、2枚にわけて、使い分け。ストームジブもとトライスルも必要です。安全備品に必要な検査の為では無く。

オートパイロットは電気を使う。よって、バッテリー消耗しますから、ウィンドベーンになりますか。
でも、最近では、バッテリーをたくさん積んで、ソーラーパネルやら、発電機での充電やら、結構電気頼りで行かれる方もおられる。最近のソーラーパネルも優秀なようです。でも、いざという時は電気に頼らない。

ギャレーには電気を使うプレッシャーポンプよりも、フットポンプを使い、海水も取り入れる。水も貴重です。それで、ウォーターメーカーなんかも積んだり。海水を逆浸透膜で真水に換える。とにかく、外洋艇にはたくさんの装備品が搭載されますから、オーナー側もそういう知識が要求されます。
メインテナンスも自分できなきゃいけません。そういう意味では、相当の知識が必要になりますから、外洋を目指す方は、すでに独自のポリシーがあります。誰かに誘われて気軽に行けるものではありませんし。

湾内を出れば外洋という考え方もありますが、基本的には、外洋艇としては、いざという時にも逃げ場が無いというのが前提だろうと思います。そのまま何時間も、へたしたら何日も、そこで耐える必要がある。それを少しでも安心と安全を与えてくれて、少しでもオーナーを疲れさせないのが良いですね。

こういうのに乗りますと、仮に外洋を走っていなくても、沿岸でも時化る時は時化るわけで、そういう時に余裕であります。そういう意味では、沿岸で使っても良いのでしょうが、ただ、ヨットによっては、気軽にマリーナから出して行こうという気にはなれないかもしれません。それで、沿岸でも使いやすい外洋艇というのもあります。これなら時化にも余裕が出てくる。でも、本格外洋ロングキールとかのヨットに比べると、疲れ方は違うかもしれません。しかし、良く作られたヨットはとっても良い。島伝いに行く、最近では気象を調べる事も簡単にできますし、同じ外洋でも、使い方次第というところもあるようです。

    

写真は米国東海岸のモーリス42です。セミカスタム建造ですから、オーナーのご希望を反映させて造る事ができます。また、セミカスタムでは無いにしろ、外洋艇ヨットビルダーはオプション設定を豊富に準備しています。外洋に行くようなオーナーは、それなりに自分のポリシーがしっかりしているので、それに対応できるようにしています。外洋艇は沿岸用に比べますと、遥かに高価です。それは造る手間も違えば、構造も違う。プロダクション外洋艇艇で沿岸クルージングの量産艇より2倍、セミカスタムなら3倍ぐらいかかるかもしれません。

完全なカスタムで造る方法もありますが、一からやりますと、それこそデザインから起こしますので、それは大変ですし、価格ももっと高い。こういうヨットは、超高寿命でしょうから、代々受け継がれて、船名を変えないで、初代は誰とか、二代目は誰とか、そういう風に引き継いでいくという事もあるようです。すると、恥ずかしく無いように、メンテナンスも良くなされる。まあ、平均的に、海外のヨットはメインテナンスが良いですが。

世界を回ったある方の弁、外洋に行くには慎重さも必要ですが、慎重過ぎては行けなくなる。慎重且つ大胆さも必要ですとの事。なるほど。クルージングの頂点ですね。

あるオーストラリアから来た人、日本のマリーナを見て、何でこんなにレーサークルーザーが多いの?彼らにしてみれば、沿岸用クルージング艇もレーサークルザーに見えるのか?

次へ        目次へ