第二十二話 デイセーラーの行方

デイセーラーの登場は、セーリングの概念を変えてきました。それは、日帰りの気楽なセーリングというものでは無く、高い帆走性能に大勢のクルーを従える必要は無いという事です。

従来、高い帆走性能を持つヨットには訓練されたクルーを要するのが常識でありましたが、デイセーラーはそれをシングルハンドで可能にしていきます。20年前にデビューしたアレリオン28は、多くのクルージング派と称していたオーナー達をセーリング派へと変えてきました。それは、セーリングが持つその魅力を、シングルハンドで、しかも容易な操作で可能としてきました。

そして、今日、デイセーラーはさらに発展し、レーサーの如き性能をシングルハンドで可能にしようとしています。これは、セーリングをメインテーマにしたデイセーラーにとっては、当然の方向付けではないかと思います。セーリングがメインなら、もっとセーリングを、と思うのが自然な方向です。

しかし、他のヨットとは異なるのが、そこにシングルハンドというコンセプトを維持し続けているという事です。硬いハル、ハイテク素材を使い、大きなメインセールですが、やはりセルフタッキングジブを採用し続けます。そして、高いスタビリティーとハンドリングの良さが、シングルハンドを可能にしています。

アレリオンにおいても、昨年デビューしたアレリオン33Sは、まさにそういうシングルハンド/ハイパフォーマンスの方向にあります。しかし、ここで付け加えておきたい事は、そのハイパフォーマンスを目指しながらも、同時に美しさとか、滑らかさ、品の良さを備える事も重視しています。それが
ジェントルマンズボートを称される所以でもあります。

今日のデイセーラーでは、カーボン素材を使うなど、ハイテク素材を採用し、より軽く、強く船体を造り、高いバラストを持ち、大きなセールを支えています。これは、ますますそのハイパフォーマンスの方向に向かっている証拠でもあります。いずれはレーサーに劣らないスピードをシングルで可能にするでしょう。既に、そういうらしきデイセーラーも登場しています。

どこまで求めるかは個人次第ではありますが、欧米の大きな市場においては、ワンデザインレースが成立しますから、ますますセーリング重視は加速されていくと思われます。レーサーのレーティングなんかも気にしないでデザインができます。

速く走れるというのは、気持ちが良いものです。新しい世界が開けてきます。しかし、多くの方々が、難しい事はしたくない。しかし、簡単操作でできるものであるなら、それは大きな魅力となります。基本的な操作ができるのであれば、ヨットの性能がそれを可能にしていきます。スポーツカーはレーシングカーではありませんが、ハイパフォーマンスです。それと同じように、デイセーラーも発展していくと思います。

技術開発がどんどん進んでいく世の中ですが、それらの採用により、より軽く、より強く、そしてよりイージーハンドリングを可能にしていくでしょう。セーリングというイメージが、大勢のクルーがバタバタしなくても高い帆走性能を味わえるのだというイメージに変わりつつある。もちろん、本格レーサーを超えるものではないかもしれませんが、少なくとも、我々のセーリングをより面白いものへと変えていくことは間違い無いと思います。

昔建造されたレーサーが、今日見る限り、どう見てもクルージング艇にしか見えないという事があります。時代が変われば、ハイパフォーマンスも普通の事となるでしょう。でも、この進化の過程を見るのが面白い。

自由自在に、ハイパフォーマンスセーリングを可能にするデイセーラー、どこまで行くのか?最も進化が著しいヨットではないかと思います。微軽風にも良く走り、それでいて強風にも強い。これが面白く無いはずがありません。

一方、こういうハイパフォーマンスを求め続ける流れとは別に、高い帆走性能を求めはしますが、同時にジェントルマンズボートであり続けようとする流れもあります。アレリオンのクラシックデザインは、バウとスターンのオーバーハングを無くして、もっと長い水線長にする事も可能ですが、それは敢えてしない。クラシックデザインの美しさが無くなりますから。

いずれにしろ、デイセーラーの進化の過程を見るのは楽しいものです。ハイパフォーマンスと、ヨットとしての美しさと、人間が求める欲求には、限りがありませんね。

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