第二十二話 いかにを問う

ここからあそこ迄行くにしても、いかにを問うのがセーリングです。このいかにが無くなったら、ただの移動になってしまいます。移動では無く、いかにを問うのがセーリングの本質だろうと思います。
従って、セーリングはいかにを楽しむ道具という事になる。

だからこそフィーリングを大事にしたいと思います。どんな時もフィーリングが最も大事なのではないかと思います。何ノットのスピードが出たという事実よりも、どんなフィーリングだったのか、その方を重視します。全てはフィーリングの為にあると言っても良いぐらいです。

でも、フィーリングは議論にはなりません。各個人の感じ方にもよるからです。それに客観的事実として説明する事ができない。ですから、フィーリングをテーマにして、話合うことすらやりにくいし、話し合っても発展もしない。

ですから、事実にのみしか言及できないので、デザイナーは全長や排水量やセールエリアを数学的に示して、その性能を示す。しかしながら、そこに本当は人間のフィーリングが介在するわけですが、それらの内容を数学的に示す事はできない。

でも、どうでしょうか?我々がレースに出て、勝ちたいと思う時なら、数値は大事です。それでも良いのですが、レース以外、実際は、多くの場合、楽しみたいわけです。面白さがほしいわけです。数値も良いが、数値として表せない、フィーリングがいかに、という問いが本当はあると思います。

真っ直ぐ走るだけでも、ヨットによっていろんな感じ方があります。コクピットに座った感じはどうか、舵を持った感じはどうか、ヒールするにしても、そのヒールする時の船体の動き方はどうか?
シートを引く重さ、ウィンチの位地によっては使いにくいかもしれません。それにそのウィンチの設置された高さの問題もある。問えば、問う程に、難しくなります。こんな事は仕様書にも書けない。
仮に、何センチ、何キロと書いても解るものでもありませんし。

でも、その表せないフィーリングにこそ、我々の望むものがある。あるヨット、コクピットに座り、背もたれにもたれますと、実に良い感じというのがあります。背もたれに微妙なカーブが設けてある。それが何だか心地良い。また、あるヨットは、舵を持って、左右の端に座る部分に、お尻のカーブにあわせて引っ込んでいるヨットがあります。これもまた心憎い演出です。こういう目に見える部分もありますが、もっと大事なのは、目に見えない部分。

舵を持って真っ直ぐ走るだけで、何か滑らかさを感じるものがある。これなどは、それだけで気持ちが良い。舵が軽いか重いかという、ふたつにひとつでは無く、軽すぎず、重すぎず、何か良い感じというのがある。

強風でも、安心感がある、波に対する当たり方にも、タック時にも、加速時にも、ありとあらゆる場面で、データ的な数値以外に、重要なフィーリングというのがあります。

これこそが、本当は我々が求めるものではないかと思います。もし、本当に良い感触を得たならば、スピードが何ノット出ていようがあまり気にはならないのかもしれません。でも、良い感触を得る時、スムースさ、抵抗の無さ、無駄の無さ、そういう事になり、結局はスピードは出る事にはなるのでしょうが。

という事は、逆に、スピードを求める事によって良い感触を得られるという可能性を持つ事ができるのではないでしょうか?それは、より良いセール操作であり、より良い舵操作であります。ヨット自体の性能を変える事はできませんが、その中で、よりスピードを求める事は、より良い操作を必要とし、スピードを阻害するあらゆる抵抗を削減する事ではないでしょうか。その事によって、結果、良いフィーリングが得られるようになるのではないかと思います。

何も、スピードを求めて無理をするという事では無く、良いバランスを求め、スピードを求め、そのヨットでできる最高のフィーリングを得る事、それがセーリングなのかと思います。それがいかにを問う事によってなされる。良いフィーリングが得られたら、それに勝るものは無い。

微風、軽風、中風、強風、それぞれの風で、しかも波の影響もあります。どんな走り方をするのか、どんな感じなのか?そんな感じに重きを置いていきますと、微妙な変化が解るようになる。何だか解らないが、感じる事がある。船底が少しでも汚れると、それで感じが違う。

全てがうまくいきますと、実に滑らかな感じを得る事があります。例え、ゆくりしたスピードであっても、何だかスムース感がある事があります。このスムース感をできるだけ多く感じられるようになると良いだろうと思いますね。風はセールをスムースに流れ、波もスムースに流れる。絶妙なバランスが取れているのでしょう。これこそが、セーリングの醍醐味かもしれません。

その為に、スピードを求め、フィーリングに集中するのが良いんだろうと思います。すると、自分の動きもスムースにならなければなりません。コクピット内での移動から、舵取り、いろんな操作にスムースさが必要になる。これらが全部揃ったら、どんな感じになるんでしょうか?セーリングは実に面白い。

良いヨットは、オーナーがこのスムース感を得やすいように作ってあるのかもしれません。それはバランス、船型、セールプラン、船体の堅さ、スタビリティー、ありとあらゆる要素が影響します。
そのデザイナーの意図を、造船所の造りを感じてみましょう。そういう乗り方があっても良いんじゃないでしょうか。従って、デイセーリングは感じるセーリングです。

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