第三十七話 セーリングの文法 

揚力については、誰もが知っています。難しい理屈は解りませんが、おおまかには誰もがご存知。その揚力を使って、セールで走る。風は無風から強風までいろいろな段階があるわけですから、
それに合わせて、最適なセールをコントロールするのが良いわけです。風の強さに対しては、フルセールで走れる風の強さと、それ以上はセールを小さくリーフして走る方法がありますが、多くの場合はフルセールの場合で、その状態で、いかに風の強さにたいして合わせられるかが重要になります。

前にも書きました安定性が高いヨットは、より強い風でフルセールで走れる事になり、それはリーフするタイミングがより遅い事になり、より快走を楽しめる事になります。さて、風の強さに対して、コントロールすべきはセールの形であります。これはリーフを余儀なくされる前までの事です。フルセールで走れるなら、その方がより快走を楽しめるわけです。

揚力は風が強い程大きくなるわけですが、同じ風なら、セールのカーブが大きい方が揚力が増す。揚力はヨットを前進させる力にもなりますが、ヨットをヒールさせる力にもなりますから、そのバランスをとらなければならない。軽風では揚力を大きくする為に、セールに大きなカーブをつける。それでも、たいして大きなヒールに繋がるわけでも無い。それだけ風が弱いから。風が弱い時は最大限の揚力を得るようにセールに大きなカーブをつける。

その風がだんだん強くなってきたら、そのままではカーブが大きすぎて、つまり揚力が大きすぎて、大き過ぎるヒールになるばかりか、スピードの速い風は大きく曲がったセールを曲がりきれずに、剥離してしまう。よって、効率良くする為に、今度は徐々にカーブを小さくしていく。風が強くなればなるほど、カーブを小さくし、フラットにしていく。

さて、それでも風が強くなっていったら、リーフをする前にする事があります。今度は風を逃がすです。風を全部受けずに、セールからある程度風を逃がしてやる。それでも、風が強くなったら、今度はセールをリーフ。

つまり、風の強さに対して、セールの形を少しづつ変える事によって、対応をするわけです。セール形状は風の強さに対してする対応。いつどういう方法で形状を変えるのか?その方法が、ジェノアのリードブロックの位置であり、バックステーアジャスターであり、バング、アウトホール、カニンガム、シート、ハリヤードであります。

操作は風の強さに対して、どういう対応を取るか?どういう形にする為に、どういう方法でやるか?
そういう事になります。これらは、風の角度は関係ありません。という事で、風は強さと、その方角の二種類に分ける。風の強さと角度は別々に考えた方が良いと思います。

上りで走っていて、風が強くなったらシートを出すというのは良くやりますが、これはセールの形のみならず角度も同時に変えています。角度を考えて走るセーリングには、これがブローのような一時的な物で無い限り、確かに風は逃がすが、角度も変わっている。メインシートを出せば、リーチが緩むので、風は逃げるが、ブームは外側へ角度も変わる。走る角度をキープするなら、セールの角度を変えないで、風だけ逃がす方法を考えた方が良さそうです。或いは、その逆で、風の強さは変わらないが、走る角度を変えたい時は、セールの形はそのままで、角度だけ変えたい。

つまりは、角度と強さを考えて、何をどうするかを考える。ヨットの各艤装はそういうコントロールをする為にありますので、どれを引いて、どれを緩めるかは、何をしたいかによる事になります。シート操作だけでもセーリングは可能ですが、そこにもう少し味付けをする事によって、別の面白さを楽しむ事ができる。うまくできるかどうかも重要かもしれませんが、その前に理屈を理解して、そこに自分の意図する事があって、そして、その為に何をどうすると考えて、実行する事に意義がある。
その為にはセーリングの文法を理解すると、意図が出てきます。意図無きところに面白さは無い。
意図がゲームを作ると思います。

そこで、セーリングの文法、理屈ですね、その他にもタッキングやジャイブや、いろんなところで、理屈を考えて、理解して、納得して、そういう知識を得る事は重要で、セーリングの近道になるのではないでしょうか。そこまでやって得たフィーリングはどうでしょう?知らないでもできるセーリング。でも、知ると走り方が違ってきます。違ってきますと得るフィーリングも違ってきます。最後はフィーリング、より質の高いフィーリングを得る事ができるようになるのではないかと思います。

風の強さが変われば、吹いてくる方角も変わる。また、ヨットも単純に走るだけでは無く、方角も変わる。風向が変われば、セール角度を変え、風速が変われば、セール形状を変える。そして、ヨットの走る方角が変われば、風向が変わったのと同じ事ですから、セールの角度を変える。つまり、風の強さが変わらないのなら、一旦最適にセットしたセール形状は変えない方が良い事になる。
風向が変わらないなら、一旦適切にセットしたセールの角度は変えない方が良い事になる。という事で、角度を変えるのか、形を変えるのか、そのあたりも考えた方が良さそうです。

そこで、今度は、ヨット側から見ますと、どういう走り方をするかという事と関わってくる事になります。クローズホールドは風に向かってギリギリを走る角度を稼ぐ走り方になります。より風に向かって上れる角度で走りたい。そういうコースを取る時、風向が変化しますから、もし、風の強さが変わらないとしたら、セールの角度はいっぱい引き込んでいるはずですから、これ以上は引き込めないので、セール操作は無し。舵で風向の変化に合わせて、舵とりをするだけになります。

でも、当然ながら、風速も変わるわけで、風が弱くなってスピードが落ちたら、上りぎりぎりではスピードが遅すぎると判断したら、少し角度を落として、という事はセールの角度も落として、スピードつけて、また角度を稼ぎにいく。そして、風向の変化の度合いによっては、タッくして、より目的地により角度的の近づけるタックで走る事をも考えます。

リーチングですと、目標地に真っすぐ一直線で走れるコースを取れる。という事は、舵はそのまま一直線で真っすぐ走れるように舵を取り、セールか風速と風向の変化に合わせて操作をする。ダウンウィンドは、上りと同じで角度を重視しながらも、スピードを考慮して走る。

こういう理屈が解ってきますと、当然ながら、自分の意図が生まれます。それこそが、セーリングゲームの面白さ。意図を生み出すには、こういう理屈を理解した方が良いし、理屈を理解しますと、自分で考える事も多くなり、創意工夫も生まれてくる。それが面白さの源泉ではないでしょうか?
何も知らないと意図が出にくいし、意図もあっちへ行くとか、こっちへ行くとか、その程度になり、ゲーム性が薄れてくるのではないかと思う次第です。すると、面白さもそこまでという事になり、もったいない話です。そこに、意図さえあれば、面白さの宝庫を見つけられるのに。

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