第三十八話 バラスト比 

昨今のヨットでは、このバラスト比が小さくなってきました。20%代前半もあるくらいです。全体重量に締める割合を指しますので、これが大きい方が、重心が下がって安定性が高まる。もちろん、要素はこれだけでは無く、船体自体の大きさも関係します。船体が大きいなら、重心は高くなります、それなら、余計バラスト比も高くしたいと考えますが、実際はそうでは無いようです。

何故、そうなるのか?これは、ヨットのセーリング離れがあるような気がします。その分キャビンが大きくなりました。つまりは、これらを建造する欧米での使い方が、そういう志向をしてきているのかもしれません。一般、沿岸クルージング艇というヨットに対する考え方が、大きなキャビンを志向し、セーリングは状況が良い時だけ使えば良い。つまりは、セーリングからキャビンへの志向が一層強くなってきているのだろうと思います。

水線長が長くとも、セールエリアが大きかろうが、船体スタビリティーが低いと、風がちょっと強くなると、すぐにリーフしなければならない。そういう事よりも、キャビンの広さ、快適性重視なのだろうと想像します。これはこれで、使い方としては、エンジン走行によるクルージング中心に、キャビン生活が中心になる。そして、たまに状況が良ければ、セーリングも楽しめる。こういうヨットには、メインセールもファーラーにしたくなります。これはこれで、こういう使い方をされる方には、良いのでしょう。

セーリング自体を楽しむ事を考えましたら、やはりバラスト比は高い方が良い。つまりは、同じヨットであっても、キャビン中心かセーリング中心かで、選択は違ってくる。その違いはバラスト比だけでは無く、デッキ上の艤装の仕方も違ってきます。

セーリングを中心に楽しみたいという場合、クルーが居るか否かが選択基準になると思います。クルーが何人か居るのなら、スポーツヨット、レーサークルーザータイプ。一人か二人で乗るのなら、デイセーラーという選択が良い。或いは、バラスト比の高いヨット。

昔のヨットはみんな、バラスト比は高く、船体も今より低く造られていました。そういう意味では、昔のヨットも捨てがたい。そういう艇は今では外洋艇ぐらいでしょうか?現代はショートハンドの時代、クルー不足の時代、そういう時代に、セーリングを楽しもうと考えるなら、はやりバラスト比は重要なのではないかと思います。逆に、量産艇がこぞって、キャビン重視に向かったという事は、欧米の多くの人達が、キャビン志向が強くなったのかもしれません。

一方、欧米では、それとは分けて、セーリング重視のヨットもある。つまりは、住み分けが明確になってきた。ヨットをスポーツとしてとらえて、セーリングを志向する派と、ヨットをレジャーと捉えて、キャビン志向に行く派と、明確になってきました。

という事は、我々も、そこのところを十分考えて、キャビン志向で行くか、セーリング志向で行くかを間違えないようにしなければなりません。そうでないと、使えるものの使いにくい。不満残りかねない。逆に使い方が合うと、昔のヨット以上に面白さが満喫できる事になります。

そこで、沿岸クルージングのキャビン志向か、或いはセーリング志向か、後者の場合はクルーは居るのか居ないのか?セーリング志向は、何もレースを意味するわけでは無い事はもちろんです。そして、外洋クルージング志向となりますと、この両方が備わっていなければならない。キャビンも必要だし、バラスト比も高い方が良い。そうしますと、必然的に重くなりますが、それで良い。荷物も増えますから。重すぎるのもなんですが、外洋への旅は荷物が非常に多くなり、その積載重量で、ヨットの性格が変わってしまっては困ります。ですから、ある程度の重さは必要になります。

当社はヨットをスポーツとして捉え、セーリング志向を中心に考えています。ですから、デイセーラーであり、クルーがおられる方々にはイタリアのコメットヨット、外洋へならば、アメリカのセーバーヨットです。

もちろん、バラスト比が全てを物語るわけではありません。船体の大きさ、セールエリアの大きさ、これらのバランスになります。しかし、バラストも船体も変える事はできませんが、セールは変える事ができる。もちろん、マストまで変える事はできませんが。少なくともリーフしてエリアを減少させる事はできる。このあたりを考えると良いのではないか?

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