第九十五話 革新

世界のマリンマーケットは圧倒的にパワーボートが占めています。それはマリーナを見ればあきらかですが、需要が多いという事で、そこの求められる欲求に対して、いろんな革新がなされてきています。アメリカのマーキュリーマリンというエンジンメーカーはゼウスドライブなる物を開発し、コンピューターによる燃費の向上、効率的なパワーによって、よりスピードを上げたり、最も画期的なのは、2基のエンジンが左右に独立して動く事です。これによって何ができるかと言いますと、ボートが真横にも、斜め後ろにも、自由自在に、ジョイスティックを倒す方向にボートを進める事ができる。また、360度、その場で回転する事もできる。という事は、マリーナからの出し入れが簡単だという事です。

マリーナからの出し入れというのは、最も心配な作業のひとつかもしれません。それが、ジョイスティック1本で、後はコンピューターとエンジンがちゃんとやってくれる。それは気楽でありますね。パワーボートの世界の進化はかなり進んでいます。

一方、ヨットはと言いますと、なかなかこうはいきません。市場規模の問題もあります。エンジンは1基がけですし、でも、何とか、ヨットの世界でも、マリーナの出し入れが簡単になったら、そりゃぁ良いに決まってます。ヨットはセールで動くもんだとは言っても、出入港にはエンジンつかいますし、それがジョイスティク1本で自由自在になるなら、誰でも簡単に、大型艇でもひとりで出せるようになる。まあ、パワーボート程では無いにしろ、セールドライブが360度回転して、それに実際に動いている方向を感知しながら、適切な方向にドライブが向く。そうなると、横風だろうが、なんだろうが、関係なくなります。賛否両論あるでしょうが、より出航しやすくなる事は確かですね。ヨットにもそういう革新がほしいものです。ヘリコプターのホバリングのように、車のブレーキのように、手を離したら、その場で停止してくれるとというのも有難い。

技術的には既にパワーボートがそういう世界に入ってきました。また、海に出れば、シートの出し入れだってボタンひとつでできる技術も既にあります。スタビリティーの向上の為にキールを左右に可動できるカンティングキールもある、どんどん進んで、いつかは、どこの部分をマニュアルに残して楽しむか?という問題になるかもしれません。或いは、全部マニュアル操作で乗れるという自慢になるかもしれない。それに賛成するか、反対するかは別にして、一旦はそういう所まで突き進んでいった方が良いかもしれません。そして自分で選ぶ事ができます。

技術革新の良さは、それが便利になる、簡単になるだけでは無く、それを選ぶ事ができるという事でしょう。嫌ならやめとけば良い。それができるというのが良い。無い物はどうあがいても選ぶ事すらできませんから。

ヨットに何が求められているか?何に困っているか?出入港の他、プロペラにロープなんかが巻きついたら嫌ですね。この2点が解決したら、かなり楽になりますね。リーフを全くしないで良いヨット、速いし乗り心地も柔らかいヨット、セールトリミングを教えてくれるヨット、そんなヨットができたら、便利この上ない。そう思っていると、いつかは誰かが発明してくれるもんです。

何故、ヨット市場が小さいのか、と考えますに、ヨットにはより知識と技術の習得が必要だからでしょう。人は楽な方に流れます。たくさんのロープがあるヨット、だからこそ面白さがあるのですが、一般的では無い。そう、ヨットやる人はみんなある種のマニアックな方々です。ボート派から見ると、そう見えるかもしれません。それを広げるには、技術革新しか無いのかもしれません。

ジョイスティックを使って、マリーナを出る。ボタンを押してセールが展開できる。また、別なボタンを押して、セール角度を決める。バックステーを引けと、ステアリングの前についた画面にコンピューターが教えてくれる。或いは、ボタンひとつ押せば、オートマチックにセールの角度やカーブをコンピューターが操作してくれる。そんな便利さの批判めいた事を書いた事がありますが、ここは考え直して、そんなヨットがどんどん出てきて、30フィートぐらいのヨットにも当たり前のように設置されて、そうなると、ヨットはもはやマニアックな世界では無くなります。すると、どんどん増えて、パワーボートを凌ぐような事が未来に起こらないとは限らない。

すると、我々は選ぶ権利を行使できますね。そんなもんは要らん。と言う事ができる。すると、余計にヨットを遊ぶ事ができるのかもしれません。どんなセーリングをしたいのかが、もっと明確にわかってくるのかもしれません。つまり、望む物は望まない物がある事によって明確になるのかもしれません。

そんな先の事はおいといて、何をしたいのか、と考えるよりも、何はしたくない、経験したくないのかと考えるのも、ひとつの方法かもしれません。

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