第九十六話 したく無い事

最もしたくない、経験したくないのは、大時化に合う事、延々と続く退屈な時間、2,3時間しか寝れないウオッチの交代の寒い夜、雨の夜。旅は嫌いじゃ無いですが、旅をすると必ずこういう事に遭遇します。これらをへとも思わない人も居ます。急いで到着する事ばかりを気にする旅もあまりしたくは無い。経験としては良い事もあるでしょうが、それを日常の乗り方にはしたくない。ちょっと走って、丘に上がって、そこの食堂に飯を食いに行く、というのもあまり魅力的では無い。あくまで個人的にですから。どうせ旅するなら、時間制限無しぐらいの方が良い。

嫌な事を取り除いていきますと、デイセーリングに行き着く。タフでも無く、軟弱な乗り方、登山なら冬では無く、絶対夏山、それでも、面白さは充分にあるし、考えてみれば求める物が違う。軟弱と言われ様と、何と言われ様と、それはそれで良い。そんな事からデイセーリングに目が向き、デイセーラーに目が向く。

デイセーリングなら、時化たらちょっと我慢すれば帰る事ができる。寒すぎると感じても、風が無い退屈な時でもすぐに帰る事もできる。気に入ったら、ずっと走ってても良い。ここに無いのは旅の要素だけです。風景も変わり映えしない。それらを除けば、後はヨットの要素が何でもある。

旅は車で行けば簡単、ホテルの方が快適、ちょうど良い季節なら、キャンプ気分で狭いキャビンに泊まるのも悪くない。すると、エアコン無くても、キャビンが狭くても、何とも気になら無い。むしろ、その方が扱いやすいし、気楽だし、重心も低くなるし、風圧面積も少ないし、メインテナンスも自分でできるし、心配事も少なくなるし、クルーも要らなくなるし、簡単に動かせるようになるし、冷蔵庫もシャワーも要らないし、その分のメインテナンスも必要なくなるし、何とも都合が良い。

性能が良くなると面白いし、フリーボードが低いので海面が近い、するとこれがまた面白い。セール上げるのも楽だし、美しいし、誰かを誘って、気楽に出れるというのも良いし、旅の要素以外では、良い事ばかりなのです。良い事ばかりなので、誰かヨット経験の無い友人を誘いたくなる。友人には、コクピットに座ってもらって、後は、楽に出して、その日の2,3時間ばかりのセーリングを楽しんでくる。それで帰ったら、丘に上がって、1杯飲んで、家路につく。丸1日、目一杯乗らなくても良い。コクピットで暖かいコーヒーでも良い。

兎に角、何かを達成しようなんてだいそれた気持ちはありませんし、軟弱なコースで、それでも時にはピリリと辛い、そんなヨットライフが良い。何にも無い代わりに、ヨットは美しいのが良い。それを磨き上げて、悦にいるのも良い。どうせおもちゃですから。したくない事が解れば、したい事も明かになってくる。結局、何を取り、何を捨てるか?全部を盛り込むと、それなりに無理が生じる。否、焦点がぼやけてくる。それなりに楽しむ事はできるでしょうが、強烈な面白さは減少していく。何でもできるも良いが、これが最も面白いという方が、もっと楽しめるような気がします。

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