第五十話 デイセーリングというコンセプト

アメリカでアレリオン28が登場してから、デイセーリングというジャンルが少しづつ広がってきました。最初は時間のあまり取れない方とかクルーがなかなか集まらない方とか、そういう方々へのアプローチだったような気もします。しかしながら、少しづつ、ビッグボートからの買い替えをされるオーナーが増え、また他の造船所からの新規参入も増え、今日ではいろんな造船所からデイセーラーの建造がなされるに至ったわけです。

そして、今日、デイセーリングという言葉はひとり立ちし、ジャンルを形成するに至ります。もはや時間が無いからデイセーリングをするというような消極的行為では無く、時間があろうが、無かろうが、面白いからデイセーリングをする。そういう積極的な行為となりました。

今日のデイセーラーを見ますと、その理由が解ってきます。想像してみてください。極めて高いバラスト比、おまけに船体にしても、水線から上の構造物が極めて低く造られています。この事がいかに高い安定性を造りだしているか。車にしても地を這うような低い設計は、地面に張り付くように走る安定性があります。そういうヨットでセーリングした時のフィーリングはどんなものでしょうか?

誰でも容易に想像する事ができると思います。地面ならぬ水面を這うように走るヨット。抜群の安定感は、セールから風を逃がす事無く、よりエキサイティングな走りをする事ができる。それでいて、恐怖どころか全く安心して走れるとしたら、どんなフィーリングでしょうか?つまり、楽しかったキャビンヨットから面白いセーリングに目覚めた。そういう事かと思います。セーリングそのものがこんなに面白かったのか、とあらためて思わせるでしょう。

つまり、多くの人達が、セーリングに目覚めた結果、時間が無いから、忙しいからデイセーリングをやるという事では無く、それが面白いからやる。そういう風に変化してきました。ちょっとした時間において、気軽にセーリングができて、安定した、それもエキサイティングなドライブ感を味わってくる。今までには無い感覚、それがデイセーラーです。

もうひとつデイセーラーに共通する事があります。それはシングルハンドを可能どころか、楽にしたという事です。全てのコントロールが舵を持ったままできるというのは当たり前ですが、それも楽にできる。その為に、ジブをセルフタッキングにして、その代わりメインセールを大きなエリアとしています。これはアレリオンから来た基本的な艤装ですが、他のデイセーラーも殆どが右へならへです。このシングルハンド仕様というのは、ヨットのサイズが大きくなっても同じで、セールが大きくなると、電動ウィンチを配しています。しかも、カーボンマストにしてさらに上部を軽くしている。ステアリング位置からすぐ前にウィンチが2個、これで全部をコントロールできる。

シングルでは乗りたく無いと思われる方にしても、最高のドライブ感を得られるデイセーラーは実に面白い。おまけにそれがシングルでも簡単に動かせるのなら、それに越した事はありません。仮に招待した客が全くの素人でも構いはしない。好きな時に、好きなだけ、セーリングを楽しむ事ができるのです。

そういう事が段々理解され、浸透してきています。もはや時間が無いからデイセーリングするのでは無く、もっと、もっと積極的な意味で、デイセーリングをする。この現象はアメリカだけでなく、ヨーロッパでも起こっています。彼らは、ヨットの持つもうひとつの特性である旅よりも、セーリングに重点を置いています。

そしてセーリングが面白いとなると、不思議にキャビンの広さと言いますか、狭さと言いますか、そういう事が気にならなくなります。逆に、キャビンを広くする事によって安定性が減少し(それでも一般ヨットより高いですが)ドライブ感が削がれる事の方が重要なのです。キャビンを別荘のように使うよりも、セーリングした方が面白いし、寛ぐのは広いコクピットでできる。その方が開放感もある。キャビンは雨の日にお茶飲むぐらい。食事なら、さっさと片付けて、エアコンの効いたレストランにでも行く。その気になれば、キャンプ気分(テントより遥かにましですが)で、寝泊りもできます。

つまり、デイセーラーはセーリングのドライブ感を味わうのに最も都合が良かった。キャビンは簡易の装備でも充分だし、メインテナンスも簡単だし、簡易であるからこそ使うのも簡単です。デイセーラーはスポーツカーのような物です。スポーツカーで九州から北海道まで走る事ができます。旅が出来る。でも、そうはしません。スポーツカーはそのスタイルの美しさと、走る事が面白い乗り物、それと同じで、デイセーラーも旅よりはセーリングなのです。そのジャンルが確実に欧米では独立しました。セーリングが好きだからデイセーラーに乗る。

日本では、まだまだそういう域にはありません。アメリカの10年いやもっと以前の状態です。でも、確実に日本でも、デイセーラーの面白さが解っていただけると思っています。旅が好きな方は旅を目的にどんどんされるが良いと思います。でも、確実に、セーリングが好きだという方もおられるはずです。日本でも、デイセーリングというジャンルが独立して、積極的な意味でデイセーリングを楽しんで頂きたいと思います。しかも、旅よりも遥かに気楽で、しかもシングルでも楽にできるのですから、誰でもできるという事です。誰でもできて面白い。これが増えないわけが無いと思っています。もう10年も前から、デイセーラーを取り扱ってきました。その兆候は少しづつですが見えてきています。是非、デイセーリングについて、じっくり考えて頂きたいと思います。

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