第五十一話 新艇

バブルの時に比べると新艇の進水が少なくなりました。でも、ひところの大不況時よりは、最近は少し変化がでてきています。古い中古が増えて、そのまま乗りつぶすか、或いは買い替える。買い換えるにしても選べる中古も少ないときていますので、ここは思い切って、これからずっと乗れるヨットという事で、新艇をと考える方も出てきています。

もちろん、我々は大歓迎で、中古なら日本に有るヨットの数は変わりませんが、新艇なら数が増える事になります。できる事なら、新艇を是非ご検討いただきたいものです。ピカピカの新艇、どんなヨットが良いか、どんな艤装か、自分の乗り方は、と考えるだけでも楽しいもんです。

バブルの頃は、某社の調査によりますとだいたい3年ぐらいで買い換える人が多かったそうな。今はもっと長〜く乗るようになってきました。長く乗るようになりますと、やはり選択は慎重に、自分の好みを反映して、惚れこむようなヨットがほしいものです。ヨットは遊びものですから、自分の遊びを満足させてくれるような、感性で選ぶのが良いかと思います。理屈で選ぶと、確かに理論的ですが、だいたい無難に落ち着く。無難は良いようで、実はヨットに関しては、あまり有効では無いような気がします。何故なら、自分が考えた通りには行かないのが普通だからです。

感性で選ぶと、少なくとも自分の感性を刺激する要素がそこにあります。好きになるという事です。時には痘痕も笑窪という事もあるでしょうが、それで良いわけです。好きになる事が大事かと思います。好きなヨットで、セーリングする。これ以上に良い事は無い。好きなヨットなら、この先、どうにかしてでも、どんな状況であれ、何とかしようとします。好きでも無い、理屈で選んだヨットなら、状況によっては欠点が先に見えてしまう。これでは面白く無くなります。常に、その良さを見ようとする態度、それは好きになる事でしょう。遊びには、それが必要かと思います。感性で選んだヨットは、自分だけのものです。他人はそこに欠点を見出すかもしれませんが、自分は気にならない。無難で選んだヨットは、他人が欠点を見出すと気になります。おまけに自分も欠点を知らず知らずのうちに探してしまう。そして少しづつ気持ちが離れていってしまう。どんなヨットでも欠点はあるものです。良さを見出そうとするか、欠点を見出そうとするか、これは大きな差となってきます。

ヨットは新艇時が最高の頂点にあって、それからだんだん下り坂というような感じがありますが、そうでは無く、新艇は未完成です。そこに、オーナーが乗り込んで、調整をしていく。シェイクダウンと言いますが、それを終えた時が最も良い時です。それから先は、乗って、メインテナンスを施して、それがちゃんとなされれば一生付き合えるものです。一生の間にはいろんな変化があります。小さかった子供が大きくなって、独立しているかもしれません。自分も年齢を重ねる。仕事を引退したり、いろいろ変化が起きます。

10年に一度ぶらいで、見直して見るという手もあります。新艇から10年。いろんな変化が出てくる。そこで10年経ったら、これから先の10年をどうするか?いろんな変化に対して、今のヨットをこれから先も乗り続けるなら、一度ここで、自分のヨットをオーバーホールするつもりで、大規模メインテナンスをしてはどうでしょう。ハリヤードやシート類の交換、大掃除、各機器が動いていても、クリーニングしてやる。木部の手入れ、錆びた部品の交換、使わない装備は撤去して、一度スッキリここでリニューアルしますと、またこれからの10年が気持ちよく遊べます。日頃のメインテナンスにプラス10年の大規模メインテナンスです。

或いは、家族構成の変化やその他で今のヨットは乗れ無くなった。或いは、自分の乗り方が変わったなどの時は思い切って買い替えです。次のヨットのコンセプトはもう考えるまでも無く、ちゃんと自分で解ります。ここで皆さんのだいたい共通する事は、家族がヨットに来なくなったとか、クルーが集まらないとか、引退して時間がたくさん取れるようになったとかです。それで、二つに分かれる。ひとつは旅を目指す方、もうひとつのお奨めはデイセーラーです。もう、この頃になりますと、大きなキャビンは不要になったのではないでしょうか?1ヶ月、2ヶ月と旅を楽しむ。こういうのはだいたい夫婦でないとできませんね。それもまた良し。旅に魅力を感じない、それ程でもないという方にはデイセーリングでセーリングを堪能していただきたいと思います。ショートの旅ぐらいなら、これでもできます。

家族や仲間とクルージングを楽しんできた方には、これから先はセーリングをお奨めします。シングルでの自由自在セーリングです。頭脳と感性を満たすゲームです。ここまで来ますと、割り切る事も比較的できるのではないでしょうか。ご夫婦二人でも、気軽なセーリングを楽しむ事ができます。ひとりでもできます。

何でも装備してフルにしてしまおうというやり方もありますが、ベテランになりますと、できるだけ排除してシンプルに乗りたくなる。それが解ってくる。装備が多ければ便利かもしれませんが、それだけメインテナンスも増えてきます。複雑になっていく。それより気軽の方が良いという考え方も出てくる。デイセーラーはそういうヨットですから、そういう意味ではベテラン向きかもしれませんね。

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