第九十八話 重心

シングルハンド艇は極めて重心が低いのが特徴です。バラスト比が40%前後から50%オーバーまであります。さらに船体自体が非常に低くデザインされています。アレリオン38でさえ、キャビン
で真っ直ぐ立つ事ができません。(身長にもよりますが)それほど低く設計するのは、重心をできるだけ下げるという意図があります。その方が安定感は良くなります。ちょっと低いぐらいじゃなく、これ程低い、一般艇との差は歴然ですね。でも、キャビンライフは犠牲にされています。ですから、これらのヨットはデイセーラー、ウィークエンドセーラーと言われます。

その代わり、これだけ重心が低いのですから、セーリングは面白くなります。つまり、セーリングを楽しむ為のヨットです。今まで、セーリングを楽しむのはレーサーでしたが、クルージング派の方々もセーリングするなら面白い方が良いし、シングルでやるなら、できるだけ重心が低い方が良いし、デイセーラーと位置づけしてでも、重心を低く取って、セーリングを面白くした。それがデイセーラーの設計思想だろうと思います。

ですから、全ての方々にはお奨めできません。セーリングを自由自在に堪能したい方、キャビンライフはキャンプ感覚程度で良いと思われる方、そういう方でないとこのヨットには乗れません。もし、そういうコンセプトが合うのであれば、最高のヨットになると思います。これが例えば、中途半端にせめてキャビンは真っ直ぐ立てる高さあればと思ってしまったら、結果は中途半端になったと思います。良くぞここまで思い切った。その潔さにお見事と賞賛したいくらいです。

日本ではセーリングを堪能したい方はたくさんおられます。でも、キャビンが狭い、真っ直ぐ立てない、そういう事を受け入れる方々はまだまだ少ないと思います。でも、今後、ヨットが浸透していけば行く程、その使い方が明確になっていき、キャビンは重要ではないと思われる方々も増えてくると思います。丁度、アメリカがそうであるように。みんながみんな、旅を楽しみたいわけではありませんし、別荘代わりに使いたいわけでは無い。もっと気軽にセーリングの深さが堪能できればと思われる方々も増えてくると信じています。

昔、普通のヨットのクルーでした。そのヨットでの使い方はキャビンはコーヒーを飲むくらい、たまに泊まる事もありましたがキャビンで料理をした事が無い、設置されたガスコンロを使った事が無い、冷蔵庫はロング以外に使った事が無い、トイレもロング以外は使った事が無い。いつもセーリングを楽しんでいました。いかに面白いセーリングをするかばかりを考えていました。それがとっても面白かった。それで目についたのがシングルハンド/デイセーラーでした。こんな使い方にはもってこいのヨットです。しかもひとりでもできる。

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