第十五話 ヨット運営の基本

これまでの話で、ヨット運営の基本はデイセーリングに有りと言ってきました。それをオーナーが自主的に積極的に行えるかどうかが、ヨットを楽しめるかどうかの分かれ目だと言ってきました。
 雑誌などを読みますと、クルージングと言えばロングというのが当たり前で、実際どれだけ行けるかは関係なく、それが夢だから、それを言っちゃあ御終いよ、とある。それも確かに一理ありとは思います。行けなくても夢だけは、という気持ちも解る。でも、現実を見ますと、それで10年、20年とヨットをやり続けられるだろうか、面白いと言えるだろうか?そういう疑問があります。夢は夢で結構、将来の夢なら、それはそれで、今はできる事の最も面白いセーリングをして、将来、そういう事ができるようになったら、買い換えて実行しても良いのではないか。そう思います。今ヨットを楽しんでいるからこそ、将来、ロングでも行けるのではないかと思うのです。それと、ロングに行く夢があって、そういうヨットを購入する。でも、それが為に、今、セーリングを気軽に楽しめなくなったら、全ては夢で終わってしまう。一体、これは何なんだろうと思います。

クルージングはロングの旅、セーリングはレース、いつからかそういう住み分けができてきました。
何故なんでしょうか。クルージング派の重めのヨットが何故、一生懸命セーリングを楽しんじゃいけないのか?それが最大の疑問です。ですから、将来、ロングに行きたい方も今は行けないのであれば、今はできる事の範囲で、ヨットを楽しむ必要があると思います。それが無しで、今は我慢してならば、多分、将来もロングに行く事は無いだろうと思います。その為、今は誰でもできるセーリングそのものを満喫するという事を基本に考えるのが良いと思います。将来、ロングに行く方も、初心者も、もうロングは散々行って、もう行かないという方も、元々ロングに興味が無い方も、つまり全てのクルージング派の方々ができる遊び方だと思います。それを気楽に満喫する。この事が大袈裟な言い方をすれば、ヨット界の活性の方法だろうと思います。普段、セーリングに親しんでいるからこそ、いつか遠くに行くという夢も現実になろうというものです。未来は未来、今は今できる事をする。それが良いと思います。

デイセーリングはショートな旅です、目的地を持たない旅です。目的地があれば、早く着きたいと思うのが人情です。でも、目的地が無い旅は、いかにセーリングするかが重要になります。逆の表現をしますと、セーリングを堪能するには、目的地は無い方が、デイセーリングの方が適しているという見方もできます。ヨットですから、セーリングを楽しもうというのは基本中の基本、当たり前の欲求だと思います。それが、今までは軽んじられ、セーリングはレーサーのものという見方をしてきました。それを取り戻して、クルージング派もセーリングを楽しむ。それを基本に日常を考え、そしてイベントとして、ちょっと遠出したり、キャビンに泊まったり、宴会したり、ゲスト呼んで、ピクニックしたり、そういう使い方を主張してきました。それで、どうやってデイセーリングにおいて、セーリングを楽しむか、これがポイントです。

まずは、シングルハンドでやるか、ダブルハンドか、信頼できる固定のクルーを決定します。これは人それぞれの事情がありますから、絶対これとは決められませんが、シングルは誰もあてにしない究極の乗り方だと思います。ただ、シングルで楽に動かせるヨットという条件がついてきますが。まずは、固定人数を決定します。時々来るクルーはあてにしない方が良い。固定クルーです。或いは、シングルです。それで、どの程度のサイズが良いかを決めます。シングルとダブル以上では全く違ってきます。ダブルならサイズは多少大きくてもさほど問題は無いと思います。

シングルなら、一番のお奨めはシングルハンド仕様のヨットが良い事は間違いないと思います。でなければ、通常のヨットでも、オートパイロットを駆使したりして可能です。ただ、できれば、オートパイロットはできるだけ使わない方が、セーリングとして面白いのではないかと思います。

セーリングを楽しむというのはレースという方法を思い浮かべますが、レースの場合は又少しニュアンスが異なります。レースは勝つ事、順位を上げる事が主たる目的になります。それはそれで面白さもあります。そこには相手との駆け引きもあるでしょうし、その面白さもありますが、やはりニュアンスが異なります。それで、レースでは無いセーリングというものを今まで軽んじてきました。それを取り戻して、レースでは無いセーリングをしようという話です。これなら相手も必要無いし、いつでも、自分の都合で楽しむ事ができるます。でも、相手が居ないので、自分次第、これはかなり自主性の要るセーリングとなるでしょう。

自分だけでセーリングしていて、気持ちの良い、良いセーリングだったと感じられた事は無いでしょうか?良い風と適切なコントロール、例え、それが偶然であったとして、1度や2度、今日は良いセーリングだったと感じられた事があると思います。それを偶然では無く、自分のコントロールで、もっと体験していこうという話です。簡単に言えばそれだけです。いろんな自然条件の変化がありますから、いろんな快走があります。それを学んで、試して、また学んで、繰り返しながら、上達していき、そのうちヨットがどんどん身近になり、乗りこなしていく。自由自在になる。それが目標です。
この中で、レースでの駆け引きは必要ありません。ひたすら最高の走りをしよう、それを体験しようという事です。

サーフィンを見てください。スキーを見てください。ただ波の上に乗っているだけ、ただ滑っているだけです。でも、そこには体験した者しか解らない、絶妙のバランスが感じられ、自分のコントロールでそれを制御していきながら、うまくいった時の快走があります。ですから、夢中になれるんです。夢中になるという事は、誰かが良い場面を提供してくれてもそうはならない。自分でやるから、自分次第だからこそうまく行った時の快走は抜群なのです。それをヨットでやっても良いじゃないか、そういう事です。

快走というのは速いという事を示しているわけではありません。いかに走るかです。釣りをする時、大量だけが目的では無いし、大きければ何でも良いわけではありません。それは初心者の場合です。どうやって読み、どうやって釣ったか、どんな餌で、どこに落として、流して、それが思惑通りいったか、そういう事が良い釣りだったかどうかを分けます。ヨットも同じで、どうやって走って、どういう走りが結果として出て、どう感じたか、これが目標です。ですから、初心者はとりあえず思う方向に走れるという事からスタートして、いかに走るかを探っていく。ベテランは最初から、いかにを考える。当然、両者の走り方は異なる。でも、それで良い。自分のレベルでスタートして、徐々に体験していく。年寄りでも、非力な女性でも、みんな自分からスタートして、自分のペースで、学んでいけば皆が楽しめるセーリングができる。楽しいというのは、あるレベルに達したから楽しいわけでは無く、その過程に中にあるものだと思います。  続く..........

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