第四話 単純から複雑へ

ヨットは面倒くさいし、複雑で難しい。だから、ボートの方が圧倒的に多くなる。しかし、面白さとは、その複雑さを解き明かす処にある。ただ、単純なだけら、5年も10年も続ける情熱を維持できなくなる。とは言っても、ただ、セーリングするだけなら、簡単なのです。取り敢えず、マリーナから出て、デイセーリングしてくるだけなら簡単です。動けば良いという程度なら、操作も面倒ではありません。

という事は、セーリングを単純化して遊ぶ事もできる。最初はこれで十分かと思います。もちろん、最初に多少の練習は必要でしょうが、車運転するに比べたら、もっと簡単です。ですから、最初に、ピクニックセーリングをどんどん満喫していただきたいと思います。少なくとも、ひとりで操作ができるようになって、誰でも躊躇なく誘えるようにはしておきたい。そこまでなら、そう難しくは無い。

それで、ピクニックをやりますが、フィールドは海です。もう、出るだけでエキゾチック感一杯であります。そこに風が吹いて、ヨットは滑るように走る。実際のスピードは時速10kmぐらいでも、セーリングで味わうスピード感は増幅され、かなり良い気分。こんな気分は陸上のどこに居ても味わ得るものではありません。舵を操作して右に左に、デイセーラーなら尚簡単。ジブとメインのシートだけ引いたり出したりするだけで走る事ができる。そんな快適セーリングを味わい、友人を誘い、たくさんのピクニックセーリングを味わう。

そんなピクニックを散々味わってきたら、そのうち、ピクニックだけでは物足りなくなるかもしれません。それで、次のステップ、少し複雑系に入っていく。何故なら、ピクニックを通して、セーリングの楽しさが解ってきて、同時に、面白さが垣間見えてくるから。

その先に進めば、セーリングは単純系から複雑系に入っていく。それは、追求すればする程に、その複雑さが解ってくる。もちろん、どこまで進むかは自分の面白さに訊いてみる。自分でコントロールできるのです。最初の操作はジブとメインの各シートだけ、それに他の操作を1本づつ加えていく。その操作するロープの数が増えるに従って、複雑系がより見えてくる。

風の強さに応じて、セールのカーブの深さを変える。そのカーブの頂点の前後位置も調整する。また、セールの上部をツウィストさせて、セール上部と下部の角度を変える。風に上る時、或は下る時、それによってセールの形を考える。いろんな状況をもたらす風、考えたらキリが無いかもしれない。そこにどうやって対応し、バランスを取る事ができるか? 考えたら複雑極まりないのです。

しかし、そこが、セーリングの奥深さであり、求めれば求めるに応じた複雑さをもたらす。また、それに応じたセールフィーリングをもたらす。そこがヨットの面白さなのであります。その複雑さ、難しさに挑戦して、その格別のフィーリングを味わうのがヨットです。だから、面倒くさがりの人には、この味わいは得られない。何故なら、結果だけがもたらすフィーリングでは無く、自分がいかに操作をしたかによって、セールフィーリングは何倍にも増していくからです。でも、いろんな操作をしたからと言って、劇的にスピードが速くなるなんて事は無い。しかし、得られるフィーリングは違う、時に、劇的に違ってくる事もある。まあ、面白くなれば、誰も面倒くさいとは思いませんが。

より多くのヨットファンを獲得したい。だから、いかに簡単に動かせるかをアピールする。しかし、本当の面白さはこの複雑さにあります。それを解き明かす処にある。まるで、良く練りこまれた推理小説を読むが如く、深みにはまる。だからこそ、長期間に渡って、やり続ける事ができる。

ヨットを走らせ、そこを楽しむ事は簡単なのであります。しかし、楽しいだけじゃあ、そのうち物足りなくなる。複雑系の面白さに一歩足を突っ込んでみると、難しさに悩み、でも、その面白さの一端も味わう。そこから、セーリングの醍醐味が始まる。5年も10年も続ける価値が解ってくる。

セーリングはスピードが大事だけれど、それだけじゃあ無い。どのように走っているか?どのように操作してそうなっているか?そこをも楽しんでいる。これは自分でやらなきゃ解らない。多くのファンを持つ釣りでも、複雑系になると、どのポイントで、どういう仕掛けで、どう流せば良いかとか工夫して、そのうえで、狙う魚がヒットすると面白くてたまらなくなります。それと同じですね。結果だけが全てでは無く、プロセスも大事であります。

より多くの人達が始めるには、シンプルで、簡単でなければ、参入者は限られてくる。ヨットは見た目で言えば複雑に見えるかもしれない。だから、圧倒的にボートになる。しかし、見た目と違って、ヨットは簡単なのです。問題は、その先の複雑系に進むかどうかの問題であって、しかも、どのレベルまで進むか? それはオーナーに選択する権利があります。でも、誰でも、その気になれば、その複雑系の面白さを手にする事ができる。その前段階に留まる事もできる。

しかし、複雑系に入る前に、存分にその前のピクニックセーリングを満喫した方が良い。そのレベルで自由自在を感じて、多いに楽しんだ方が良い。海のエキゾチック感を、簡単操作で、シングルで、誰かを誘って、海とセーリングの楽しさを味わう。セーリングに対するベースが、ここで創られていくかと思います。

次へ      目次へ