第十九話 スピード

スピードだけがセーリングの全てでは無いと何度か書いてきました。しかし、重要な要素のひとつである事には変わりありません。速い方が面白いというのは、実際、セーリングしていて、誰もが感じる処ではないかと思います。しかし、何も超のつく程速いスピードを求めるわけではありません。速ければ、それだけ、操作面においてより神経を使う必要があります。

重いヨットでセーリングしますと、強風になればそこそこ走りますが、風が弱いと極端に遅くなる。風は微風から強風まであるわけで、それでは、セーリングとしての面白さが減少していきます。それに反応も鈍い。クルージングとセーリングは別物で、要求される要素が異なります。

何故、速い方が面白いのか? それは変化がありありと体感できるからではないかと思います。
スピードは変化です。変化の無い処に面白さはありませんし、その変化が緩いのも同様です。それで、微風では変化は小さい。強風になると変化は大きくなる。できれば、微軽風でも変化を感じたいわけです。

それで、微軽風用のセールとかを展開しますと、セール面積が格段に大きくなって、スピードは出ます。まあ、もちろん、絶対スピード値は微軽風ですから小さいのですが、それでも、微軽風の中に自分が居て、その割に速いスピード感というのは、結構面白さを感じると思います。

要は、我々は絶対スピード値を求めているわけでは無いと思います。スピードが6ノットとか7ノットとか、それ以上のスピード値が出ないと面白く無いというわけでは無いと思います。もしそうなら、微軽風ではどうしたって面白く無いという事になり、工夫する理由も無くなります。そうでは無く、重要な事はスピード感にあると思います。ですから、微軽風でも、面白くする事ができる。

面白さとは、スピード値では無く、その時の状況におけるスピード感だと思います。それはヨットのサイズに寄っても違ってきますし、デッキの高さによっても違う。さらに、よりスピードを得る為に、自分がしてきた工夫なんかによっても違って来る。

スピードを決定付ける要因はいくつもありますが、第一に、その排水量に対するセールエリアがあると思います。排水量が何トンという数値もさる事ながら、それに対するセール面積の大きさによって、軽いヨット、重いヨットが決まる。もちろん、排水量が重くても、セール面積がその分大きければ走るわけですが、現実には、そんな大きなセールは無理とか言う事になるわけで、排水量が軽ければ、セール面積がそんなに大きくなくても走るし、操作的にも楽という事になるので、速いヨットを建造する造船所は、排水量をいかに軽く造るかという事が重要になります。

さて、軽ければ良いかと言いますと、そうもいかず、バラストや船体形状によるスタビリティーも重要で、強風の上りではこれが低いと走れなくなります。という事で、軽い排水量、でも、バラストは重くという相反する事を両立させなければなりません。という事はその分、船体をもっと軽くという事になります。

その他、水線長が長い方が速い。これは造波抵抗の理屈によるもので、スピードが上がれば上がる程、抵抗も強くなる。よって、水線長の長さによって、限度があり、俗にハルスピードと言われ、
水線長(フィート)のルートX1.34が、そのヨットの限界と言われます。但し、プレーニングする事でこのスピード破る事ができる。

そこで、速いヨットはもちろん軽くですが、船底はできるだけフラットにして、プレーニングし易いようなデザインにします。ただ、フラットの船底で、スピードが出てとなりますと、当然ながら、乗り心地が良いとは言えないでしょう。でも、スピード重視のヨットであればある程、そんな事は構わないとなる。逆に、乗り心地の良い、波に対して柔らかいヨットの場合は、スピードが遅い。これは仕方無い事なのかもしれません。それで、この間のどこかでバランスを取るとか、あるヨットはバウ部だけは、やや鋭角にして、その後部側はフラットにしているデザインもあります。

要は全体のバランスをどう取るか? スピード一辺倒なら、まだ簡単なのかもしれませんが、そうは行か無い現実があって、レーサーでも乗り心地は無視したとしてもレーティングの事もあるし、
スピードを重視しながらも、同時に乗り心地もあるし、また、強度としても強化しなければならないし、おまけに価格面もある。これらをバランスさせた結果がモデルとして市場にでます。突き詰めれば、複雑で、なかなか難しい。

という事で、最もそのヨットの性格をシンプルに表現した要素は何かと考えましたら、やはり、セール面積/排水量比ではないかと思います。そのヨットがどんなコンセプトで建造されていようと、そのヨットに与えられるこの数値は、そのヨットのセーリングパワーを示すものだろうと思います。そして、それに合わせて、バラスト重量、船型、水線長、船体強度等々が続く。ですから、いつも、仕様書のデータからそれを計算して出すようにしています。その上で、バラスト重量とか、水線長とかを見ます。

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