第十七話 追加要素

性能比較や操作性、キャビンの広さ、設備、使い勝手の比較等々を行いますが、もうひとつ加えたいと思います。特に、デイセーリングにおいて重要になるだろうと思うのですが、それはヨットの美しさとセールフィーリングです。これが結構重要ではなかろうかと思う次第です。美しさはパワーであると思うからです。

特にデイセーリングと言ったのは、最も制限が少ないからで、外洋とか、ロングクルージングとか、レースとか、そういうジャンルでそれなりの効率を求める場合は、美しさは二の次になるかもしれません。が、デイセーリングではそれらの縛りが最も少ない。

近場ですから気軽です。気軽に、自分の気に入ったヨットを出す。それだけでも気分が良いのではないでしょうか? シングルでも、デートセーリングでも、美しいヨットを気軽に出して、スイスイ走ってくる。

その為の条件としては、やはり、第一にヨットに最高のメインテナンスを施して、常に美しさを保つ事、そして、それを操船する自分の知識や技術においても、ある程度は慣れている事。せっかくの美しいヨットでも、操船にあたふたしていては美しくありませんから。

美しさんはそれぞれの価値観がありますから、これが良いとは断定できません。直感的に気にったヨットが自分の持つ美的感覚です。その中で、セーリング性能はどうなのか? 造りはどうなのかと比較して、最終的判断を下す。

その気に入ったヨットのジャンルがどれなのか? 多分、レースしない人がレーサーの姿形を気に入るという事はあまり無いと思うのですが? 美しさは、大抵、全体の姿形が整っている。プロポーションの良さと、クラシック系かモダン系のデザイン。こういうヨットは大抵、バランスも良い。

全長に対する幅、それと高さ。ジャンルを越えて、大きなサイズになればなる程、このデザインの制約が少なくなります。だから、美しいプロポーションを与える事ができます。しかし、小さくなりますと、人間の背丈は変わりませんから、やはり制約が出てくる。もちろん、これらはデザイン面において重要な要素です。しかし、デイセーラーというジャンルが受け入れられてから、キャビンの重要度を低減し、そのお陰で、自由にデザインができるようになった。それは美しいプロポーションを与える為の制約を取り払ったと言えます。また低くデザインできるという事で重心も下げる事ができたわけです。

この事は世界のヨット界のマーケットが、成熟してきた事を意味すると思います。装備の豊富さや性能、使い勝手だけを追い求める事から、その他、感覚的な要素を追うようになってきた。それは成熟度を意味すると思います。機能さえ果たせば良いわけでは無く、美しくなければならないという欲求は、人間の欲求としては、高いレベルにあると思います。

美しさだけでは無く、セールフィーリングも同様です。ヨットが成熟していない処には、美しさやフィーリングよりも、機能が優先されます。それが過ぎて、熟した頃、違う要素が求められるようになっていくと思います。 それは、使う側が熟した事、使い慣れた事、いろんな要素があって、その中で何が自分によって重要で、何が重要で無いかが解ってきたからこそ、自然発生的に出てくる要素だろうと思います。つまり、熟すればする程、使い方、価値観等々が明確になっていきます。その為に、美しさという要素も生まれてくる。それもパワー、大きなパワーを持っていると思います。我々が着る服にしたって、暖かければ良いわけじゃ無く、ファッションとしてのデザインが重視されます。熟しているからです。

美しいヨットを美しく走らせたい。これもひとつのジャンルにしたいぐらいです。

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