第九十五話 クローズ

上りはセーリングにおける醍醐味のひとつです。いかにもセーリングしている感じがします。しかし、前にも書いた通り、角度を上れば上る程に、スピードは落ちます。しかし、クローズの走りは面白い。そこで、クローズで出来る限りスピードを感じたい。十分な風速がある時、上りの醍醐味をおおいに味わう事ができます。

上りではヨットが大きくヒールします。当たり前ですが、上る為には、セールを内側に引き込まなければなりません。そうすると、セールの揚力は横側に大きく作用する事になります。前進側にはちょっぴりになります。そのちょっぴりの前進側の揚力でスピードが出る為には、その分大きな揚力、すなわち風速が必要になります。その風速が強いと、当然ながら横側への作用も強くなるので、大きくヒールする事になります。

そのヒールを支えるのが船体側のパワーで、当然ながら、ハルの重心は低い方が良いので、全てのデイセーラーはそういうデザインです。キャビンの天井が低い。最近のクルージング艇とは逆です。そして、重いバラストキールを下げています。だいたいですが40%前後です。最近のクルージング艇はキャビン天井は高いし、バラスト比も20%代というのが少なくない。でも、幅は広いので、その幅はスタビリティーに寄与する。

兎も角、デイセーラーはセーリング重視なので、低い重心のハルと重めのバラストというデザインになります。しかし、幅は狭い。それで、初期ヒールしていき、ヒールしだすと重いキールが横に張り出していくので、非常に腰は強い。だから、ライフラインも不要にできる。実際に乗りますと、それが良くわかります。

ただバラストが重いだけでは、排水量も重くなって、パフォーマンスが悪くなります。だから、全体を軽くしながらも、バラストは重く、しかも、船体は強くないといけません。そこが難しい。よって、キャビン内もシンプル化して、重量に寄与します。もちろん、船体は、サンドイッチ構造、そして、それをバキュームインフュージョン工法にて軽く、強く。構造もあります。 軽いと言っても、レーサーではありませんので、そこまで軽量化はしていません。あくまでシングルハンドでセーリングを楽しむというのが重要な処です。

さて、デイセーラーはセルフタッキングジブです。マスト前に左右に走るレールがあり、その左右のエンドが上りでの引き込み角度になります。その位置は、通常のジェノアトラックより内側にありますから、舵でより上らせても、セールに揚力を発生させる事ができる。だから、上り角度は良い。セールを引き込む分、横側に働く揚力はより後ろ側(より横側ですが)に働く。よって、ヒールを支えるより高いスタビリティーを持つ必要があります。

つまり、上り角度をより稼ぐには、セールをより内側に引き込める事と、それを支えるスタビリティーが必要になる。セーリングは上りばかりではありませんが、でも、上りはセーリングの醍醐味です。これを楽しまない手はありませんね。

セルフタッキングジブですから、簡単に何度もタッキングができる。これはシングルには有難い事だと思います。ならば、タッキングもどんどんしながら、上りのセーリングを楽しみます。でも、無闇にタッキングしても面白くありませんので、そこにはゲーム性があったほうが良い。

風に向かって舵を切り、セールを内側に引き込んで風に上らせる。これ以上無理という角度まで上らせたり、少し落としてスピードをつけたり、自由自在です。そして、目指すポイントさえ設定しておけば、それに向かって、風向が有利に働くか、不利に働くかを考慮して、タッキングをする。

風速が変わらないなら、セール形状は変えなくてい良い。一旦引き込んだセールはそのままで、舵操作だけで風向に追随していきます。風向が変われば、舵で合わせる。そんなゲームを展開しながら、風向が目的地に対して不利になったと判断したら、タッキングして、有利な方を取る。そういうゲームです。神経も集中します。真剣にやれば緊張もします。それが面白いんですね。目的ポイントの角度と、変化する風向を考えなければなりません。右からアプローチか、左からか、それが考慮されてこそ、タッキングに意味を持たせる事ができます。

是非、クローズのセーリングを、いろいろ理屈を考えて、楽しんでいただきたいと思います。理屈が解って、できるようになると、今度は感覚が喜びを感じるようになる。せっかくのセルフタッキングジブですから、どんどんタッキングして、滑らかさを手に入れましょう。

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