第九十三話 デイセーラーを観る

デイセーラーを観るとそのデッキの低さに驚きます。一般ヨットがどんどん高くなる一方ですから、その違いはますます大きくなるばかり。桟橋からちょっと高いぐらい。だから、乗り降りも簡単ライフラインも無い場合が多いので、ますます容易で、ライフラインにつま先を引っ掛ける事も無い。また、デッキが低いもうひとつの大きなメリットは重心がその分低いという事であります。

走る物は、重心が低ければ低い程良い。風圧面積も小さくなるし、ボリューム感に圧倒される事も無いし、気軽に乗る気にもなれる。但し、その反対側で、デッキが低いからキャビン天井も低い。キャビンの中でまっすぐ立ってうろうろする事はできない。入れば座るのが基本になります。キャビンを単独で観るならば、広い方が良いに決まっている。何故なら、キャビンは長く過ごす場所だから。でも、デイセーラーは敢えて、低い重心を取ったという事になります。セーリング重視だから。

また、幅が狭い。30フィートあたりの全長でも、だいたい2.5m程度、多分、一般ヨットなら、3m以上はあるだろう。何故、狭いのか? 舵を握って、いろんな箇所に手が届く。シングルハンド仕様にしたからだろう。何故、シングルハンドにしたのか? それは多分、いつでも、自分が気が向いた時に気軽に出せるからだろうと思います。クルーの都合で動かすかどうかを決めるなら、誰がオーナーか解らなくなる。あくまでオーナーが主役です。シングルでできるというのは重要です。しかも、楽にできる事が重要です。

セールはセルフタッキングジブか或はノンオーバーラップジブ。殆どがセルフタッキングですが。そして、それを補うように、大きなメインセールがある。ブームが長い。クルージング艇がどんどんブームを短くして、コクピットに邪魔にならないようにしてきたが、その反対です。何故なら、メインセールの方がコントロールの幅が広いから。セーリングを軸にするなら、その方が良い。ジブやジェノアは、コントロールの幅が狭い上り用のセール。だから、コードゼロやジェネカーなんてセールに置き換える事がある。でも、メインに代わるセールは無い。

狭い割に、コクピットは広い。何故なら、デイセーラーの主たる場所はキャビンでは無く、コクピットなのだから。その殆どの時間をコクピットで過ごす。言うならば、ここはセーリングの場所であり、場合によってはメインサロンにもなる。デイセーラーのキャビンは、サブであります。

コクピットに座って、舵を握る。目の前にメインシートが来て、全てのコントロールがコクピットにリードされる。30フィートぐらいまでなら、操作にウィンチを必要としない事が多い。だから、舵を握って、片手でシートをコントロールできる。自分で両方を同時に簡単に操作する事ができる。だから、それが面白さに繋がる。舵を持つ手にフィーリングを得ながら操作ができる。どっちも自分でできる処に違いがあるし、意味がある。

操作は、各シート、バング、カニンガム、リーフ、バックステーアジャスター、そしてメインのトラベラー。ただ、ジブシートは1本だけ。風上に座っていても操作ができるのは嬉しい。ジェノアトラックは無い。その代わり、セルタッキングジブ用のトラック。或は、ジブブームがあると、もう1本アウトホールが操作できる。

セーリング操作は簡単です。しかし、セーリングは操作しないで良いというセーリングでは無い。それどころか、操作をする事によって変わるセーリングを楽しむ処にセーリングを楽しむという意味がある。自分が意図して操作して、その変化を起し、それを楽しむのがセーリングです。ただ、楽に操作ができるという事は重要。操作自体が難しかったり、面倒だったりすると、セーリングを楽しめなくなる。

時折、ライフラインが無い事に懸念を示す方もおられるが、全くその心配は要らない。だから、殆どのデイセーラーにライフラインを設置していない。だいたいコクピットから出る必要も無いし、万一出ても、はなっからライフラインが無い前提で前に移動するので、危険を感じた事は一度もありません。

見た目で解る事はこんな処だろうか。でも、セーリングすると、船体の硬さとかから来る滑らかなセーリングを感じます。そのうえで、セーリングをいろいろ楽しむ事ができます。クラシックからモダンまで、お気に入りのデザインで、思う存分、デイセーラーのセーリングを楽しんでいただきたいと思います。

デイセーラーはセーリングを楽しむ為にある。ならば、セーリングを追求し、上手くなる事でそれがもっと深く追求できる。味わいが深くなるから、セーリングは面白くなる。ただ動かすのとはわけが違う。同じようにセーリングしてるように見えて、感じている世界は別であります。

次へ      目次へ