第八十九話 セーリングを考える

セーリングには揚力がつきものですが、風が吹いてセールの上を流れる。その作用はセールに直角に働き、そのパワーはヨットが横流れする力と前進する力に別れ、横流れを船体やキールが止め、よって前進する力が残る。

セールを船体中央側に引き込む時、セールは中央に寄ってますから、揚力はほぼ船体の横方向に働く事になります。すると、揚力が横方向ですから、横流れする力が当然大きく、前進する力は少ない。だから、ヨットは大きくヒールして、その割にスピードは出ない。ただ、向かい風になりますから、スピードは出ているように感じます。ヨットのポラーダイヤグラムを見れば一目瞭然ですが、上れば上る程、スピードは落ちる。

ところが、走る角度を落として行きますとと、当然セールを外側に出す事になります。すると、やはり揚力はセールに直角ですから、そのパワーが前側に移動していき、結果、横流れの力は小さくなっていき、前進力が大きくなる。横流れの力は小さくなりますから、当然、ヒール角度も小さくなっていきます。ボートスピードは上がります。

また、上りでは、風に向かって走るわけで、セールは内側に引き込み、それをどんどんギリギリ迄詰めて行きますと、もうこれ以上、上れ無いという角度にまで来ます。スピードは落ちますね。だから、こういう時は十分な風がある時という事になりますが、ギリギリまで上ると、セールは目一杯引き込んだ状態で、角度重視の走りですが、この状態では、セールを少しでも出すと、セールがバタバタします。セール角度の調整幅は非常に少ない事になります。

一方、走る角度を落としていきますと、セールも外に出します。スピードは上がって行きますが、上り角度としては悪くなる。また、セール角度の調整幅も少しづつ広くなり、少しセールを出したり、引いたりしても、セールがバタバタする事は無く、調整範囲は広くなっていきます。

そのヨットのスピードと上り角度での角度稼ぎと、上ればスピードが遅くなり、スピードを上げる為に落とせば、角度は悪くなる。その丁度良いポイントがVMGと呼ばれる。それは一定では無く風速によってもこのVMGは異なる。

   あるヨットのポラーダイヤグラムです。
   赤い線は内側が風速6、8、10、12、14、   16、一番外側が風速20ノットです。
   図の回りが走る角度、左側の縦がボート
   スピードです。

   上れば上る程にスピードが落ちてます。
   赤く塗りつぶした点がVMGです。VMGは
   縦のボートスピードの線に直角に線を引い
   て最も高い位置にある点がスピードと角度
   の最も良い効率になります。

   横から後方側はスピンを使ってのセーリン
   グです。これを見ますと、120度ぐらいが
   最も速いという事になります。それ以上
   角度を落として行きますと、スピードは
   落ちてます。ダウンウィンドでも、VMGが
   あって、赤い塗りつぶしの点がそれになり
   ます。角度とスピードの関係は下りも同様
   です。

   これはセーリングの特徴を表しています。
   ヨットによってスピードは違うし、上り角度
   も違いますが、セーリングの特徴として
   同じです。

   風がある程度あると、角度を詰めても、
   そこそこのスピードは得られますが、弱い
   とスピードが落ちる。よって、少し角度を
   落として、スピードをつけて、また上るとか。

下りは落としすぎるとスピードが落ちるので、少し上らせるとか、その時々で、いろいろ考えて走らせる事になります。
   
レースでは無くても、これらが理解されて、自分のセーリングに反映するなら、それは自分の意図があるわけで、セーリングに意図をもって走らせるなら、それは面白さの創造に繋がっていくかと思います。

セーリングは、その時々の現象を、そのまま楽しむという方法もありますが、このように、意図をもって走らせる事もできます。意図を持てば、意識した操作になり、その反応も楽しむ事ができる。
その操作が間違っていようが、意図した反応を得られなかったにしても、意図した事によって、それが解る。という事は、意図した反応を得る事もあるわけで、それは面白さに違い無い。  

こういう事って、本当は既にみんなが知っている事なんだろうと思います。しかし、それを明確に意識して走らせているかどうかは別ですね。

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