第八十二話 シンプル

もう十分じゃないか? と思えるぐらい、ヨットにはいろんな装備がなされるようになりました。しかも、まだまだ進んでいます。つい最近ですが、ある方の感想では、船内に入ると、まるでどこかのマンションの一室のような印象を受けたと感想を漏らされます。

最近のヨットはセーリング以外の部分で、どんどん装備が増えてきています。それはキャビンだけでは無く、コクピットを見ても、いろんなものがあります。それに反対する気持ちはありませんが、でも、そういう装備が増えれば増える程に、シンプルである事への魅力も強く感じてきます。

造船所はこれでもかと、いろんな装備をくっつけるし、オーナー側も、あっちこっちにいろんな装備を設置する。もちろん、無駄なわけではありません。みんな、ある目的があって、あれば何らかの役に立つものです。

反面、何もないシンプルなヨットもあります。もちろん、セーリングに関する装備は充実しています。けれど、それ以外の余計な物は無い。無いからこそ、気持ちが分散されずに、素直にセーリングに向かう事ができるという事もあるんじゃないか?

たくさんの道具に囲まれるのも良いかもしれないが、逆に、自分が本当に必要とするシンプルな装備も良い。いろんな場面を想定するなら、いろんな物があった方が便利です。それで、装備はどんどん増えていきます。しかし、どこかで折り返し点が来て、それがシンプルさに向かうのではなかろうか?目に飛び込んで来るいろんな物は、どういうわけか気持ちを分散させるような気がします。
シンプルにセーリングを味わうには余計な物が多すぎるのも考えものではなかろうか?

欧米では、花瓶にたくさんの花を飾ります。しかし、日本では一輪挿しなんかのように、たった一本の花を飾るという価値観があります。シンプルなんですが、そこに何らかの価値観を持つ。それと同じような感覚かもしれません。

何も無いからこそ、純粋にセーリングを味わえる。そういう事もあるんじゃないかと思う次第です。
最近のダブルラットも結構、その前にGPSやいろんな計器類を設置するのも結構、テーブルやカップホルダー、オーナーズチェアーにドジャー、ビミニ、折りたたみ式のステアリングまであります。みんな結構であります。みんなそれなりの役割があり、みんな何らかの役に立つ。しかし・・・・・・

何にも無いシンプルなヨットにもおおいに魅力を感じてしまいます。シンプルだが、質の高い、上品で、美しいヨットに魅了されてしまいます。シンプルだからこそ、質を問います。もちろん、セーリングにも質を問います。

道具は、何らかの行為をする上において役に立つ。考えれば考える程に道具が必要になります。それは、あれもできるこれもできるという事になります。そして、シンプルは、そのいろんな行為の中から、最重要課題を選び出し、そこに集中させて、そこにより良い質を求める事になると思います。どっちが良いかの問題では無く、どっちを選ぶかの問題です。それで、デイセーラーはシンプルにセーリングを選んだ結果だろうと思います。美しいヨットを自由自在に乗りこなす。そこに価値を求めています。

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