第二十話 三拍子

どんなスポーツでも、肉体は使うし、頭だって感性だって使います。しかし、そのバランスを見ますと、一般的スポーツである野球やテニス、サッカー等では肉体的消耗度がダントツに高い。だから、年を取るに従って、昔のようなプレーはできなくなる。よって、プロの世界を見たら、我々から見たらまだまだ若いのに引退という事になってしまう。

そこいくとセーリングは違う。確かに肉体も使うが、その消耗度は他のスポーツ程では無い。だからこそ、年取ってから始める人も多いのであります。それが可能だからです。肉体を鍛えなおすのも良いが、今更という感じもするし、せめて現状維持と健康を気にするぐらいか?動体視力なんか鍛えようがないし。

まあ、何もセーリングが老人用のスポーツと言いたいわけではありません。ただ、それ程他のスポーツのように肉体を消耗するスポーツでは無いという事です。その代わり、頭は使わなくちゃいけません。感覚も同様です。特に、感覚の度合いは他のスポーツ以上ではないかと思います。

適度な肉体の使用と、知性と感性、これが実にバランス良く刺激される。こんなバランスの良いスポーツは他に無いかもしれません。セーリングをするに、頭をつかわなくちゃいけません。特に、上手くなろうとするなら知力は欠かせない。理屈を学び、自分でそれらの理論を組み合わせて考えなくてはならない。

さらに、頭で考えた事を肉体が実践し、その結果を感覚で感知する。スピードだけならスピード計で確認する事はできるが、セーリングはそれだけじゃない。様々な感覚が刺激され、それを受けて、知力に引渡し、再び肉体に指令を出して、感性に戻ってくる。

つまり、これら三つがバランス良く循環し、刺激されているわけであります。こんなスポーツは他には無いんじゃなかろうか?大抵のスポーツは肉体が突出して消耗され、次に知性が使われ、もちろん感覚も使われるが、その割合には差がある。しかし、セーリングに関しては、この三つが程良くバランスしているのではなかろうか?

だとするなら、この三つを上手に使うのが最も正しいヨットの乗り方かもしれません。肉体を再び鍛え上げるのは簡単じゃ無いし、まあ、無理という事にしておきましょう。せいぜい維持に務めるぐらい。でも、知性と感性はまだまだ鍛えられる。それに、これらは苦しくなる事も無い。考えて、何かが解っていくと、面白くもあるわけです。記憶力が? とか言う方もおられますが、実践を伴いながらなら、ちゃんと体と頭で記憶できる。感性の方は集中力さえ発揮できれば、感じる事も多くなる。

体と頭と感性が、一緒に進む事で、全ては進化していきます。体は、より楽になり、効率良く動けるようになるし、無駄が無くなる。頭脳も感性も徐々にバランス良く進化します。何故なら、これらが一体とならないと上手くならないからです。上手くなるのは誰でもなれる。それは自然に三つ一緒に進化していく事でもあると思うんであります。

だから、セーリングを続けてきますと、三拍子が揃っていく事になります。なかでも知性と感性が刺激されるというのは面白さの源泉でありますね。良く考えて、良く感じて、ちょっと体を動かす。セーリングは前者ふたつの割合が大きい。敢えて言えば、知と感のスポーツであります。よって、その知と感を使わずしては、スポーツにはならない。そこが最も面白い処なのに。

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