第六十四話 理想的セーリング

微風の時は、軽いヨットが欲しくなり、微風でもスイスイ走りたい。しかし、強風になったら、どっしりした重めのヨットが欲しくなり、クルージングの時は広いキャビンを持つヨットが欲しくなり、厳密に言うなら、乗る度に状況は違うので、乗る度に買い換えたい。

しかし、土台、無理な話。それで、それらを全部満たすようなヨットがあればと思うし、或は、少しでもそれに近づこうとする。そのひとつの手法として、キールが左右に動くカンティングキールなるものが生まれました。このヨットが十分に軽いのであれば、微軽風にもスイスイだし、強風時には、キールを風上側に移動させて、スタビリティーを稼ぐ事ができます。それで、強風でもフルセールですっ飛んで走る事ができる。

しかし、スピードが速くなりますと、鋭敏になります。わずかな操作も鋭敏に反応してくるので、その操作をするにも緊張が高まる。よって、それなりのクルーを擁しないと、とても操船できなくなるかもしれません。まして、シングルハンドなんかは難しくなる。

プロのレーサーは兎も角、或は、プロで無くても、レースを本気でやっている方々は兎も角、一般的な使い方から考えますと、速いヨットは確かに面白さを提供してくれるが、速すぎるヨットは、それを超えてしまいます。

それで、一般的にセーリングを楽しむにおいて、ましてシングルハンドにおいて、スピードがある程度迄しか楽しむ事は困難になります。車でも時速100Kmなら余裕です。200Kmになると、かなり緊張するかもしれない。ましてや300Kmなんか無理。実際そういうスピードを体験していないので解りませんが、多分そうでしょう。

という事は、強風におけるスタビリティーを増す分には良いが、軽いヨットも良いが、軽すぎない事は必要だろうと思います。ここで言う軽いというのは、セール面積に対する軽いであります。それで、どのあたりが良いのかと考えますと、セール面積/排水量比が25ぐらいまでかな? と思います。あくまで個人的感想ですが。

このぐらいの数値になりますと、微軽風でもある程度スイスイ走れるし、十分なスタビリティーがあれば、強風においてもフルセールの度合いも広くなり、それ以上はリーフで対応していく。

また、もうひとつの考え方として、セール面積/排水量比をもっと下げて、強風域でのセーリングをもう少し和らげる。その代わり、微軽風がスイスイというわけには行かなくなりますので、その代わり、微軽風用のセールとか、コードゼロやジェネカーを使っていく。

もちろん、前者の方が速い。でも、速いなりの対応をしなければならない。反対に後者では微軽風での対応をしなければならない。ただ前者においては、微軽風でもある程度スイスイとは言いながら、もっとスイスイを欲するようになるので、結局は、同じように微軽風用セールとか、コードゼロやジェネカーを使うようになるのかもしれません。

つまり、一般的には、遅すぎず、速すぎずという事で、いわゆるデイセーラー群の多くは、それに匹敵します。アレリオン、ハーバー、イーグル等です。ただ、DINAMICA 940だけはこれをしのいでいます。だから、このヨットの乗り方としては、シングルでは、微軽風からある程度の中風域までで、強風ではクルーを擁するという乗り方になるのかもしれません。実際、ヨーロッパでは、シングルや家族でのセーリング時と、レース時では強風もあるので、違う乗り方をして、使い分けているようです。

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