第二十一話 サイズとボリューム

昔ですが、あるヨットの天井が低かった。キャビン内で真っ直ぐ立つ事ができませんでした。そのヨットのサイズは35フィート。このサイズで真っ直ぐ立てないなんて。そう思って、造船所に訪ねました。もう少し天井を高くできないか? 造船所曰く、そうしたら美しくないとの返事。 その時初めて、なるほど、そういう考え方もあるのかと思いました。それに、重心を低くデザインしているので、セーリングを中心としたヨットには、その方が良いんだとも言われました。なるほど、キャビンよりもセーリングか、とも思いました。

この時の最初の違和感は、その時からちょっと変わってきました。セーリング中心か、クルージング中心か、それによってデザインが違うのは当たり前です。軸をどっちに置くかですね。確かに、セーリングを軸にするなら、キャビンを使う事はそう多くは無い。キャビンに入って、ソファーに座れば、特に問題は無い。それに、重心は低くなる。

最近のクルージング艇はその長さに対して、兎に角ボリュームが大きい。幅は広いし、デッキも高く、キャビンは非常に広い。でっかいのは良い事だ。クルージング艇は家の発想と同じになります。
それはそれで良い。クルージング艇なら、長い旅とキャビンで過ごす事が多くなる。キャビンで過ごす時間が長いなら、広い方が開放感もあって良い。

でも、一方で、セーリングを考えるなら、それはまた違った視点を持つ事になります。昔のヨットは、今程幅は広くないし、デッキも高くなかった。多くのオーナー達は、セーリングもするが、クルージングもするという事でした。当時、いわゆる何でもできます的な発想で、アピールされていた。

しかしながら、その後、クルージング艇とセーリング艇とは発展の過程で、デザインが変化してきます。上述した35フィートは、当時では珍しかった。でも、その後、デイセーラーの出現と共に、発展の仕方が変わってきました。

クルージング艇の発展は、その後、幅広とデッキが高くなって、キャビンがどんどん広くなります。当然の発展の方向性かと思います。一方、デイセーラーはその逆であります。つまり、この二つはその用途における性能とか機能性を考えて、方向性が分離してそれぞれの方向に発展していきます。つまり、クルージング艇は昔のクルージング艇より快適なキャビンを提供してきたし、デイセーラーはより快適なセーリングを提供してきました。

つまり、何かが発展していくと、その軸において、より進化を遂げていきますから、この事はいわゆる、専門性が高くなる。専門性が高くなると、その専門においてはより優れますが、その専門以外では不得意にもなっていく事になります。何でもというわけには行かなくなります。病院に行く時、外科なのか、内科なのか、或は、また別の科なのかと選ぶのと同じですね。

それで、ヨットも、何がしたいのか、何が軸なのかを問われる事になります。それがより具体的に解った方が、よりクルージングなり、セーリングなりを楽しめる事になります。でも、経験が無いとそれが解らない。販売する側はクルージング艇でも、セーリングもそこそこと言うし、セーリング艇でも、クルージングに対して可能と言います。もちろん、どちらも両方できる。でも、得意はどっちかになる。

クルージング中心か、或はセーリング中心か? 世間的にはクルージング艇が多い。でも、私、セーリング中心をお薦めしております。日常のピクニックから、ちょっとスポーツ化したセーリングから、真剣セーリングまで、セーリングを日常の軸にすると、楽しいし、面白いし、しかも気軽に頻繁に乗る事ができる。旅とセーリングは異質なんですね。だからヨットが違う、評価も違う。違って当たり前で、その違いにそれぞれの性能があると思います。だから、サイズだけでは無く、一緒にボリュームも考える方が良いかな?

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