第二十二話 ヨット考

ヨットを海に浮かべて、その時の水線から以下が大きな体積になるなら、そのヨットは重く、体積が小さいなら軽い。そして、水面下の体積が大きいと、それを取り囲む海水の接水面積も大きくなって、それは抵抗になる。でも、抵抗にはなるが、同時に、水は空気より粘度が高いので緩衝材の様な役目もして、船体の動きを緩やかにする。一方、軽いヨットは水面下の体積が小さいし、海水の接水面積も少ない。よって、抵抗が少なく、また、緩衝材としての役割も少ないので、反応し易い。

しかし、重いか軽いかはセール面積との関係によって変わる。セール面積はそのヨットの動力でありますから、排水量が5tより、6tの方が軽いという場合もあります。それはより大きなセールを持てば、そういう事になる。つまり、そのセールパワーに対して、軽いか、重いかという事になります。

スピードはその水線長の長さによって制限される。造波抵抗なるものですが、風がどんどん強くなって、パワーが増えても、この規定に制限される。しかし、もっと強くなっていきますと船体が浮かび上がって、滑走します。すると、もはやこの規定には制限されなくなって、造波抵抗の壁を破る事ができる。だから、モーターボートは小さくても速く走れます。

それで、滑走し易くする為に、大きなセールを設置しますと、その時点で、そのヨットは軽いヨットになっていきます。でも、大きくし過ぎると、今度は取扱が大変になります。安定性も低くなる。それで、セールはほどほどにして、船体を軽くする事に努めます。これで、セール対排水量で軽くなる。さらに、接水面積も減らせるように、船底形状をフラットにしていきます。同じ排水量でも、鋭角な形状とフラットな形状では、体積は同じでも、接触する面積は違ってきます。

船体を軽くすると、今度はボディー剛性が気になります。簡単によじれては困るし、スピードにも影響するし、セーリングも気持ちが良くない。だから、軽くするも、強くしなければなりません。それで、そういう構造や工法が進化していきます。

さらに、安定性を考えるなら、同じ排水量でも、バラストが重い方が良い。という事は、さらに船体を軽くして、軽くなった分をバラストに追加する。船体を軽くする為に、カーボンという極めて軽く強い素材を使う事もあります。しかし、非常に高価であります。では、船体自体のボリュームを減少させれば、その分軽くできます。剛性もさらに高まる。

クルージング艇は多少重い方が良い。ロングクルージングに出る時、必然的に積載貨物も多くなる。それはスペースだけの問題では無く、重量が増えた時に性能変化があまり出ないようにする意味もある。それに、海水の緩衝作用が多く働いて、よりゆったりできる。

一方、セーリングを軸とするなら、軽い方が良い。反応は良くて、操作感に面白さが生まれる。それに速く走れると面白さも違う。このセーリングを軸とした場合、昔はすぐにレースを発想したが、今はそういう時代では無い。純粋にセーリングを遊ぶというジャンルもあるわけです。

重さはそのまま、そのヨットの性格を表す。重さと言っても、セール面積/排水量比であります。その数値は、デザイナーが意図した数値で、その数値によってその性格が決まるとも言える。それで、その数値に合わせて、他もならっていくと思います。後は、強度とかバラスト重量とかになるかなと思います。だから、セールエリア/排水量比を計算して、そのセーリングの程度を見、そして、バラスト重量を見、さらに仕様書で工法を見る。これでだいたいそのヨットが解るのではないかと思います。ただ、セール面積はジブかジェノアでも違いますから、他の艇と比較するにおいて、この事は頭に入れておく必要があると思います。

次へ       目次へ