第十八話 酷使に耐えうるか

良いヨットの条件とは? 使い方によって、いろんな条件が違ってくると思います。しかし、共通するひとつのポイントとしては、通常では無い状況におけるそのヨットの能力という事が言えるのではないかと思います。

普通の状況では、どんなヨットでも問題は無い。もちろん、スピードとか、安定性とかは多少違うでしょうが、さして問題にする程でも無いと思います。普通の状況ではです。ところが、一旦状況が変わって、時化に遭遇したりしますと、話は変わってきます。普通の状況では、その違いが少しなので、たいした問題では無かったのですが、状況が一変しますと、その違いが大きく増幅されて、その違いが大きくなります。

という事で、良いヨットとは、普通の時ではたいして違いが見えないかもしれませんが、状況が一変した時にこそその力を発揮する。そういう状況に対応できる能力を持つヨットと言えるかと思います。それは強い船体であったり、その為の構造であったり、いろんな要素があると思いますが、何も壊れるかとという問題よりも、普通の時にショートハンドで問題無かったのが、時化た時には、それが大変になるとか、バランスが崩れて走れないとか、不安感が非常に大きくなるとかです。

良いヨットというのは、そういう時でも、バランスを保って走らせる事ができる。もちろん、少しは大変にはなるでしょうが、安心感やら信頼感等がある。

つまり、酷使に耐えうるかというのは、むちゃくちゃに使って、それでも大丈夫かという事では無く、良いヨットでもメインテナンスは当然必要ですが、その能力において幅が広いという事になるかなと思います。

昔々ですが、サラリーマン時代の事です。ある光学機器メーカーに勤務しておりました。光学レンズとか、その他いろいろ造っていたのですが、そこの製品は確かに良かった。例えば、双眼鏡ひとつとってもそうで、通常では他のメーカーの物とたいした違いは無かったのですが、辺りが薄暗くなってきますと、その明るさの違いが歴然とでてきました。また、カメラなんかでも、通常はあまり違いは無いが、超望遠とかのレンズを装着しますと、全然違ってくる。そういう違いがありました。

ただ、そういう性能をどう考えるか? そこまで必要かどうか? それは各人次第です。そんな時化た時の想定よりも、通常の状態に耐えれば良い。そのほうが価格的に安い。それは事実ですから、それはそれで結構かと思います。ただ、良いか悪いかという議論をする時、通常の状態では、たいした違いは無い。だから、みんな一緒なんだという結論は違っていると思います。

車だって、通常の市街地を走る場合はたいして違いは無いかもしれません。しかし、悪路を走るとか、高速を走るとかでは違いが増幅されていきます。その違いを望むか、望まないかはありますが、でも、良い車とは、やっぱり違うものです。

今日、頑丈さばかりでは無く、帆走性能を上げる為に、軽くする試みがなされています。この矛盾するふたつの要素を最新技術で何とかしようという事です。それには、素材が持つ特性もありますが、そのヨットの内部的構造や工法が重要な意味を持ってくると思います。私の知る限り、プロダクション艇における最も良い工法は、樹脂量をコントロールできるバキュームバッグ方式ではないかと思います。重量軽減を試みない方法では、その必要は無いと思いますが、軽くでも強くを目指す時、この工法が最も優れているのではないかと思います。もちろん、各社の技術レベルもありますが。そして、今ももっと良い方法はないかと研究はなされていると思います。

ですから、良いヨットとは、酷使に耐える、軽いが硬いハル、そういう船体にまつわる事になるかな。そして、用途にあったデザインとか、艤装ですね。カチッと造られたヨットは操船していて気持ちが良い。ゆるりと造られたヨットはそれなりに。

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