第九話 アレリオン スポーツ 33

昨年の暮れに舵社さんより取材をしていただきましたアレリオンの記事が、舵社4月号に掲載されました。取材によれば、費用対効果の事が書かれています。また、ピクニックボートという言葉もありました。

確かに、そういう見方もできると思います。しかし、私の見方は少し違います。ヨットというものが、レースとクルージングに分類され、レーサーはスピードを追いますが、一方、クルージング艇においては、帆走そのものを楽しむという事が薄れてきているのではないか。それはそれで、クルージングにとっては問題は無いし、巨大なキャビンは、むしろ歓迎でもあります。

しかしながら、ヨットはヨット、やはりセーリング自体を楽しみたい。レースをする時のセーリングでは無く、ただ、のんびりピクニックセーリングでも無く、純粋にセーリングそのものを味わうというものです。セーリングの面白さはどこにあるのか?

アメリカでは多くの場合、かつてのビッグボートからアレリオンへの乗り換えが多い。その場合、どんなヨットはが良いのか?元々、そういう事を考えて設計されたわけではありませんが、しかし、彼らがセーリングに望む事は何か? それが、丁度デイセーラーであるアレリオンが注目を受けたわけですが、そこから今日のデイセーラーというコンセプトが始まりました。元々は、レースを散々してきた方が、もう疲れたので、もっと気軽にシングルで乗れて、しかも高い帆走性能を持つ、美しいヨットを作りたいという事から、建造されたヨットです。

ピクニックといいますと、のんびりセーリング、気軽なデートセーリングを想像します。もちろん、それも有りです。しかし、それだけでは面白くない。それだけなら、ヨットは何でも良いかもしれない、雰囲気だけでも良いかもしれない。しかし、それだけで何十年も乗れるとは思えません。何故なら、それらはたまにやって楽しいものですが、では面白いかと言いますと、それだけでは面白いとは思えない。

セーリングの面白さはどこにあるのか?そこがこのアレリオンのテーマです。レースでは無く、クルージングでも無い。ただ純粋にセーリングそのものを味わう事、そこに面白さを見出す事。速いだけでは不十分で、レスポンス、セーリングの滑らかさ、安定性、かちっとした作りからくるフィーリング。曖昧な言い方になりますが、セーリングから得られるあらゆるフィーリングを、より向上させる事。フィーリングこそが面白さではないかと思います。

つまり、ヨットはレースだクルージングだと別れた事で、素晴らしいセーリングのフィーリングそのものを忘れかけてきたかもしれません。帆走する事は、レースでもクルージングである必要も無く、セールを上げて、走るそのフィーリングにこそ、セーリングの良さがある。そこに滑らかさというフィーリングがあって、時折味わう加速感があって、言葉で言ってしまえば、安定感とか、そういう事になってしまいますが、言葉では無く、実際に自分で感じたフィーリングは、言葉でくくる事はできません。フィーリングにはそれ程の魅力があると思います。

セールフィーリングを求めた。それがアレリオンだと思います。その為に帆走性能を上げるし、その為に安定感を高め、その為にハルを硬く造り、その為にデザインされた。帆走性能はスピードや上り角度とかを言う事が多いのですが、セールフィーリングというテーマは無かったと思います。言わば、セールフィーリングを重要視した帆走性能という事だと思います。上質のフィーリングを目指すわけです。

初めてアレリオン28でセーリングした時、何と滑らかなと感じました。こんな事はこれまで一度も無かった感じです。それにふっと加速する感じも味わいました。また、舵を扱う感じ、安定感等、ライフラインなんて必要無いと感じました。帆走におけるスピードは、フィーリングにとっても、重要な要素です。ですから、それも求めます。しかし、レーサーのそれとは違うわけで、そこに何らかの重要なフィーリングを損なう事では面白さが違ってきます。

結論として言えば、アレリオンはセールフィーリングを重視したヨットという事ができると思います。
それはこれまでには無かったコンセプトではないかと思います。曖昧なフィーリングをテーマにすると難しくなります。しかし、そこを敢えて目指し、外洋に行くわけでは無い、レーサーとして生きるわけじゃない。でも、上質なセールフィーリングを気軽に楽しみたい。それで、ピクニックも良いし、デートセーリングも良い、でも、主たる目的は神経を集中して、セーリングにおけるフィーリングを、ありとあらゆるん部分で、より多く味わおうという事、そこを主としてこそ、楽しいだけじゃなく、面白さがそこにあると思います。美しいセーリングを目指すと言い換えても良いかもしれません。
Good Sailing、Good Feeling であります。

今回取材していただきましたアレリオン スポーツ 33は、従来のアレリオンをもっとスポーティーにしたヨットです。既存のアレリオン33のインテリアをシンプル化し、ラットをティラーに変えて、重量を減らしています。この事がまたフィーリングを変えます。

 
これはアレリオン33 ラット仕様、電動ウィンチ

 
こちらがアレリオン33スポーツです。ティラー仕様 

フィーリングとは曖昧です。好みもあります。言葉で具体的に説明する事も難しい。それは帆走に限らず、雰囲気にも現れる。美しさはそれぞれですが、アメリカ東海岸特有のトラディショナルなデザインと落ち着いた大人の為のヨット、まさしく ジェントルマンズボート と言われる所以です。
速いか遅いか、重いか軽いか、そういう事を良く聞かれますが、セーリングはそれだけでは無いのでは無いでしょうか? 何故なら、ヨットは遊びだからです。それはまさしくフィーリングだと思います
デイセーラーの存在価値はそこにあると思います。形として見えないだけに、難しいですが。

舵社のスタッフの方々、記事を書いて頂いた西村さん、お世話になりました。有難うございました。

ところで、ピアソンが風力発電の羽を作っていのは、今に始まった事では無く、昔からです。SCRIMP工法によって、軽く強くできる技術を持っていたからです。その他、True Northというヨットマンズボート、North RIPというフィッシングボートも別部門で建造しています。日本では知られていませんが。ピアソングループと言われています。

さて、今日の一曲。
アートペッパー You'd Be So Nice to Come Home To

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