第五十七話 セーリングの概念

セーリングとは何だろう? と考えた時、クルージング艇もセーリングしますし、レーサーもします。しかし、クルージング艇の主体はクルージングであり、レーサーの主体は競争にあります。どちらもセーリングをしつつ、その主体はセーリング以外にある。

では、セーリングを主体にしたヨットって? そう考えますと、それが今までは無かった事に気づきます。不思議と言えば不思議な事かもしれません。どんなヨットでも、セーリングはできる。それが速いか遅いかしか考えて来なかった。その性能でもって、主体となるクルージングやレースを評価してきました。しかし、セーリングが主体では無かったと思います。

そこで出てきたのがデイセーラーです。これはセーリングを主体として考えられたヨットです。では、セーリングを主体とするなら、どういうセーリングが良いのか、という事になると思います。これは、これまでには無かった概念ですから、それが浸透する迄は、時間もかかるだろうと思います。何しろ、セーリングは他の何かの手段でしか無かったわけですから。セーリングの概念は無かったと言えます。

そこで、新たに、セーリング概念というのを構築したいと考えるわけです。まず、セーリング主体を考える時、それはピクニックと考える方がおられますが、それは違います。ピクニック程度なら、ヨットなんて何でも良いと思う次第です。それでは、セーリングを主体にする意味がありません。

       

セーリングをする時、エンジンをカットした途端に静かになって、スイスイ走ると良い気持ちになります。その良い気持ちをもっと広げよう、簡単に言いますと、そういう事です。その良い気持ちが、そのヨットにとって丁度良い風が吹いたときという事だけとするならば、それでは、年間に滅多には無い事になります。実際の風は微風から強風まであるわけですから。

微風から強風まで、できるだけ幅の広い風域で、安心して、気持ちの良いセーリングを味わいたいと思います。その可能性を高めていく為に、シングルハンド仕様にしますし、重心を低くしますし、硬いハルを造ります。実際、ピクニックなら、そこまでやる必要はありません。でも、これらの要素が、安心感と、操作性の良さと、滑らかなセーリングを与えてくれます。セーリングの質が違ってきます。それがセーリングの概念です。そして、それはピクニックする時でも、いい気分を与えてくれる事は間違い無い。

また、気持ちの良いセーリングだけでは無く、面白いセーリングである必要性もあります。それが長いヨットライフを創造するに絶対必要かと思います。例えば、初心者の頃は、気持ちの良いセーリングだけでも良いと考えると思います。しかし、その初心者の方もやがてはもっと詳しくなっていきます。そうなった時に、レスポンスの良さとか、バランスの良さとか、そういう事を重視するようになると思います。それにも応える必要があります。

そのヨットは何ができますか? と尋ねてきました。その問いに対して、クルージングができます、レースで速いですとか答えてきました。しかし、デイセーラーは、何ができますというより、セーリングをするにおいて、オーナーをサポートします。オーナーがセーリングに自由自在感を持てるように、サポートします。そして、より質の高いセールフィーリングを提供します。

デイセーラーにとって、セーリングこそが主体であり、キャビンはその次の事です。それはサイズがでかくなっても同じです。レースでも無い、クルージングでも無いヨット。何となく解ったようで、これまでに無い概念ですから、なかなか難しい。でも、いつか、セーリングというヨットの基本的な性能が、話題になる事と思っています。もうすでに、欧米ではそれが始まっているますから。

例えば、スポーツカーが存在しない世界に、突然スポーツカーが現れたとしたら? 何で二人しか座れないんだ? 何で、こんなに地面に張り付くように低いんだとか、それも、視点がレースやクルージングにおいてどう使えるかという目でみるなら、違う処を見ている事になります。それに、ピクニックという目で見ると、見失います。

走って愉快、走って面白い。それがセーリングの概念です。セーリングを通じて、違う何かを楽しむ事とは違うと思います。セーリングというのは全てのヨットにとって、基本的な事であったにも拘わらず、そのものに対して、あまり注目されてこなかったのではないかという気もします。

今日の一曲 ジプシーキングス Volare

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