第十八話 大きな造船所、小さな造船所

世界の大手と言えば、フランスのベネトー、ドイツのババリア、アメリカのカタリナ、ハンター、その他も、ジャヌー、ハンゼ、デュフォー、その他いろいろあります。一方、それら以外の小規模造船所も世界には多数あり、一体何社あるのか?

そして市場の最も大きな部分は、沿岸用クルージングです。これには、個人オーナーもおられますし、海外ではチャーターヨットの会社も数多い。大手が狙うのは当然ながら、この最も大きな市場という事になります。ここにしのぎを削る。

小規模造船所は、同じ土俵で戦ったのでは適うわけも無いので、異なる分野を狙う。大抵は個人オーナーの市場です。それも、沿岸クルージング用では無く、レーサーとか外洋とかデイセーラーとかになります。

大手の造船所は、比較的小さなサイズから大きなサイズまでを建造し、小さなサイズから大きなサイズへのステップアップ、また、モデルチェンジを数年おきに行なって、買い替え需要を喚起する。

一方、小希望造船所では、小さなサイズを造る事は少なく、比較的大型化するようです。小さなサイズだからと言って、手間はかかる。でも小さなサイズでは、なかなか価格にそのまま反映できないという理由があると思います。それに小さなサイズでは、沿岸用との競合も激しくなり、価格的に敵わない。

外洋艇を求める人は、それなりの性能を求めます。レーサーもそうですし、デイセーラーもそうです。そしてそれを建造するには、手間がかかる。という事は大量生産はできない。大手にとっては効率が悪い。それが小規模造船所の生きる道。

個人オーナーは求める内容がそれぞれ異なります。沿岸用クルージングを考えておられる場合は、大手の建造するヨットが良い。でも、何年も乗り継いで行きますと、なかには、外洋に出たいとか言う方も出てきますし、俺はレースがしたいという方も出てきます。或いは、もう遠くに行かないし、レースするわけでは無いが、セーリングを楽しみたいという方もおられます。これらに応えるのが小希望造船所だろうと思います。

外洋と言っても、外海に出れば外洋なのか? ここで言う外洋は、クルージングして、何日も何日も陸に寄らないクルージング。時化に会おうが、無風だろうが、兎に角海の上。そうなると、大時化にも耐えうる頑丈さ、しかもよりオーナーを疲れさせないヨットという事になります。昔は、兎に角頑丈で、重く、走らないが、波に対して非常に柔らかくオーナーを疲れさせない。そういうヨットでしたが、徐々に技術も上がって、最近では、頑丈だけれど、そこそこ走るヨットというのもあります。それは一日の行動範囲を広くさせる。これは技術進歩の御陰だろうと思います。

本格レーサーの場合も技術革新の恩恵を受け、より軽く、硬いハルを建造できるようになりました。でも、最近の動きは、レースと言っても、プロレーサーを雇ってくるというより、オーナー自らが舵を握るスタイルに代わり、行き過ぎた性能よりも、安全を考慮したルールというのが作られるようになったのは良い事ではないかと思います。ところが、あまりにもルールが多くなりますと、技術発展が無くなるので、ボックスルールという、必要最低限のルールだけを望む声もあります。それなら、デイザナーの腕を振るう機会も多くなる。

クルージングでも無く、レースでも無く、ただセーリングを堪能したいという動きに対しては、デイセーラーで応えます。それはシングルハンドを容易にしたという事では無く、あくまでセーリングを求める方々に応えるヨットですから、スピードはもちろん、そのフィーリングに重点を置いたヨットだろうと思います。ですから、軽く、硬く作らねばなりませんし、デッキ艤装にしても、シングルを容易にしなければなりません。

このデイセーラーが市場に受け入れられるようになって、さらに発展させようとしているのが、デイセーラー/レーサーです。サイズも手頃で、30フィート〜35フィート程度で、日頃はシングルでデイセーリングを楽しむ事もできますが、レースをしても高い帆走性能を持ち、ワンデザインレースをしようという動きです。そこにデザイナーが腕を振るう。レーサーは進歩の御陰で、どんどん新しいデザインが導入されますが、ワンデザインなら、その度に買い換えるなんて事は無い。買い替え需要よりも、より仲間を増やす事を狙っています。

これらのヨットを建造するには、手間がかかる。高い技術も必要ですし、それに対して市場は小さい。という事は小規模造船所から出てくる事になりますし、ここが彼らの生きる道でもあります。その目的に合う品質を高める事、性能を高める事、これなしでは小規模造船所の存在価値は無い。

要はどこまで求めるか次第という事になります。求めれば求めるだけ、その性能や品質を上げなければならない。素材、工法、職人の技術、デザイン、これらが複雑に絡み合って、ひとつのヨットが出来上がる。そのヨットは、どこを走るのか? どうやって走るのか? 同じ様に船体を持ち、セールを持つヨットですが、全然違うヨットですね。実に面白い。

昔、こんな事を考えた事があります。あるヨット、その造船所の年間建造艇数を調べ、価格を調べる。それでだいたいの予想がつく。

今日の一曲 ジャイミー カラム What A Difference A Day Made

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