第九十八話 マニュアルとオートマチック

最近出たデイセーラーでは、車では無いですが、オートマチック的なヨットが増えてきています。ちょっと前なら、40フィートあたりでもウィンチにハリヤード巻き付けて、必死にハンドルを回していたもんです。ところが、このデイセーラーに限っては、もっと楽に大型艇を動かすという意図と、もうひとつはシングルハンドを意識しているせいでしょうか、電動ウィンチは当たり前の感じですね。

アレリオンもモーリスもハリヤードには電動ウィンチを採用してます。これがもっと進んだのがフレンドシップのシリーズですし、イタリアのブレンタシリーズです。それについ最近のWALLY NANOもそうですが、ハリヤードだけでは無く、シートの出し入れ、メインのトラベラーの左右のコントロール、バング、ありとあらゆるコントロールがコクピットからのボタン操作で可能となっています。昔から大型艇では電動ウィンチの逆回転するのが無いかなとは思っていましたが、ついに、すべてコントロールが可能になりました。

という事は、マリーナから出て、セールを上げるにボタンひとつ、シート出すにボタンひとつ、ちょいとツウィストをとトラベラーを引き上げるにもボタンひとつです。これを最初に採用したのが、ドイツのディスタンシア60でした。次にフレンドシップ40、次にステラ44(ブレンタ38の前身)、そしてヒンクリーが来て、それらはもっとでかいサイズになっていきます。50フィートとか60フィートとかでも、コクピットからひとりで全部の操作が可能です。まあ、これもシングルハンドというかどうか?

車もそうですが、操作は楽にというのは人間の必然的流れだと思います。良いか悪いかは別として、そういう流れは止められません。それに技術が追いついていますから。当然でしょう。でも、まあ、これが30フィートぐらいにまではなかなか来ないでしょうが、でも、多分、ハリヤードウィンチは電動になるかもしれませんね。既に、小さなサイズでもメインファーラーにする人が出てきました。それと同じかと思います。便利には勝てません。便利はおおいに享受して、面白さはキープしておく。便利過ぎて面白さも失ってはヨットの本質が損なわれる事になると思います。

何もこの流れに逆らう必要もありませんが、オートマチックもおおいに結構かと思います。大きなヨットをそれで簡単に動かせる。その為に気軽に出せるようになるなら、大いなるメリットかと思います。ただ、どの程度調整してとかいう、その変化を楽しむ余地は残した方が良いと思いますね。ボタンひとつで全て適切なトリミングをされるようになると、遊びが遊びでは無くなってしまいます。既にそういう装置も発明されていますが、採用された話は聞いた事がありません。ただ、唯一発明者が自分のヨットに設置したそうですが。

オートマチックも多いに結構、気軽に出て、スイスイとセーリングを楽しめる人が、ひとりでも増える事を願っています。でも、舵だけは自分の手で握りたいと思います。フィーリングが伝わってくるように。これもオートにしたんではヨットのフィーリングが味わえなくなるのではと思います。

こういう時代が進むと、多分マニュアルで乗る良さも強調されるようになると思います。車では少なくなりましたが、ヨットは必ず残ると思います。何故なら、ヨットは遊びで、フィーリングを味わうのが目的だからです。30フィート以下ぐらいなら、むしろマニュアルの方が面白いし、むしろウィンチさえも使わないで全ての調整ができるようになると、その方がもっと面白いと思うんですが。大型はオートマチックで楽に乗れる。小型はマニュアルの面白さを味わえる。良いと思いますね、これから先どうなるか楽しみです。

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