第七十八話 ディープな世界 

偶然つけたテレビで釣り番組をやってました。釣りはやらないのですが、何となく見ていたのですが、内容はへら鮒釣りというやつで、竿に懲り、浮きに懲り、糸にも針にも餌にも凝る。そして釣るのも、浮きの動きで底を知る。何とマニアックな世界。ディープな世界です。

何をするにしても、しょっちゅうやってますと、濃縮されると言いますか、より深く入っていく。そうなっていかざるを得ない。そこでマニアックといわれるようになります。かく言う私、このTALK&TALKを書き始めて数年が経ち、例外に漏れず、しょっちゅう書いていますと、濃縮され、いつの間にかディープになっていきます。他に書く事が無くなるからでしょう。とは言いましても、それほどディープではありません。ほんの少し入ったぐらいかと思います。

釣り番組を見て、ディープだなと思いましたが、自分でやりたいとは感じませんでした。何故なら、釣りがことのほか好きだという事では無いからです。するにしても、年に1回程度、それも海釣り公園でやるのが関の山でしょう。

興味が無い事に、いくら面白さを説明しても、興味は沸いてきません。釣りの世界がこんなにもディープな世界になったのは、日本中で多くの人達が、長い間夢中になってきたからでしょう。長い間やり続けるとディープになる。濃縮されていく。何でもです。

ヨットでも、多くの人達が長い時間をかけてやり続けると、一部の方々はディープな世界に入っていきます。欧米では木造艇もあるし、自分で作る人も少なく無い。でも、日本ではまだまだそんな世界ではありません。まずは多くの人達がやっていないし、歴史も長く無い。まだまだ時間がかかるでしょう。そんな中でデイセーラーは、決してディープな世界では無いと思いますが、でも、一般的よりは少し深いかもしれません。おまけに、クルージング派の方に向かって、セーリングだのトリミングだの言うのですから、それはディープに見えます。

でも、少なくとも、皆さん、ヨットが好きだという事は、ディープな世界に1歩踏み入れる才能があります。ヨットが一般的な遊び物として認知されていない今の時代に、ヨットやってるなんてのは、一般人からすれば既にディープなのだろうと思います。そこで、誠に時代は早すぎるのかもしれませんが、もっとセーリングをしましょう、もう少しだけディープな世界に入りましょうと誘いをかけています。ディープな世界は、外から見ると、良く解りません。でも、本人は極めて面白い。ですから、場合によってはマニアックと呼ばれるかもしれません。でも、外の人は解らない事に夢中になっている人をマニアックと呼ぶ。ただ、それだけでしょう。本人はマニアックでもディープでも無く、ただ夢中、面白いと思うだけでしょう。

で、日本もそろそろ、ほんのわずかでも良いですから、ほんの少しディープな世界に足を突っ込んでみると、面白さは今までとは次元が異なると思います。それは動かす事ができるという事から少し突っ込んで、いかに動かすかです。釣り人がいろんな部分に凝るように、セールのカーブに凝り、舵捌きに凝り、マストチューニングに凝る。そうやって走った感覚がわずかであっても、微妙な変化が感じられる。その変化を感じとろうとする行為は既にディープな世界ですし、変化が感じ取れる人は面白さを感じ取った方でしょうから、さらにディープに行くでしょう。

つまりは、表面で遊ぶか、深く遊ぶかの違いです。別にどっちでも良いのですが、しょっちゅうやる人は自然にディープになっていく。そうなっていかないとしょっちゅうはやれない。そういうもんだろうと思います。

このTALKを書き続けるという事はディープな世界に入っていく事になるでしょう。それ以外に書くネタが無くなるからです。でも、できるだきけディープにはならないようにとは思います。今からヨットを始めたいと思う方々が、面白そうだと思えるような内容にしたいとは思っています。でも、反面、これまで何年も乗り続けてこられた方々には、少しディープな世界に入って、もっと面白くして頂きたいと思います。それが唯一、もっと面白くする方法だろうと思うからです。

野球を始めた頃はキャッチボールや打って投げるだけでよかった。でも、長年やりますと、ピッチャーならカーブボールを投げたいと思うし、チェンジアップだの、フォークなどが投げれると面白くなります。それと同じでしょう。ヨットだって、長くやりますと、より厳しいセールカーブを見れるようになって、より適切なセールトリミングができるようになりたいと思います。そうでなければ、続ける事は困難になると思う次第です。

旅の場合も同じです。近場の旅で満足していたのが、もう少し遠くへ、沖縄へ、もっと南へ、南太平洋へとディープな世界にはいていかざるを得ない。そうでなければ続けられない。デイセーリングは旅ではありませんので、セーリング自体にディープにならざるを得ない。それが歴史となるのではないかと思います。

日本ではまだ少ないものの、それでも、30年とか、それ以上の中古が珍しく無くなりました。という事は相応の歴史があります。それで動かなくなったヨットが多いという事は、1歩ディープな世界に踏み入れる時期でもあると思います。そうする事によって、歴史は長く、深くなっていく。今、旅でもセーリングでもディープに入る時期かと思います。是非、やっていただきたい。みんながそうなっていきますと、ディープと思えた事が何でも無い事になり、マニアックでも無い事になり一般的になります。そこで、また誰かがもっとディープな世界を切り開いていきます。そうやって、長い歴史はつくられ、長いと当然ながらディープになる。このディープさが無いのは、一時の流行と呼ばれ、やがては消滅していきます。ヨットには無くなってほしくはありません。それで、少しディープなお誘いもしたくなります。

次へ      目次へ