第七十七話 デイセーラーヨット

10年以上前からデイセーラーには注目していました。最初に注目したのはアレリオン28です。しかし、当時、アメリカでも売れていませんでした。アメリカのホイト氏は、ニッチ市場だから、売れないと言ってましたし、日本で売りたい旨を伝えましたところ、普通のヨットをやった方が良いぞとも言われました。それでも、諦めきれずに始めたわけです。

それから後、デンマークのノルディックフォーク25を見つけ、それが全ヨーロッパばかりでは無く、アメリカ、カナダ、オーストラリアにまで広がっている事を発見。元々、このヨットはデイセーラーでは無く、当初、60年ぐらい前ですが、当時はレーサーとして、しかも外洋性のあるものでした。それが今では市場の変化に伴い、デイセーラーとして恰好のヨットとして使われていました。

そうこうしているうちに、アメリカでアレリオン28が注目されるようになり、売れていきます。やっと日の目を見た。多くのユーザーは、ビッグボートからの買い替えで、クルー確保やメインテナンスの煩わしさ、そういう物から解放されて、もっと気楽に自由に、純粋にセーリングを楽しみたいという方々が殆どだったようです。それから、他の方々、初心者の方、キャビンヨットからの転身、ベテランでもう遠くへは行かなくて良いという方々、いろんな方々がアレリオンを指示され、あっちこっちでオーナー倶楽部もできるようになっていきます。

ノルディクフォークは古くから愛好家が世界中におられ、協会が設立されています。そういう状況の中、新たな市場を見た他の造船所、デザイナーが次々にデイセーラーコンセプトのヨットを造ってきます。アメリカのデザイナー、テッドファウンテンはフレンドシップ40をデザイン、メガヨットの技術を導入して、油圧式によるシートの出し入れを可能とし、シングルでもこのぐらいのサイズを気楽に操船できるようにしました。同時に、ドイツではディスタンシア60というとんでも無い、デイセーラー、シングルハンド艇を建造、すべてがスイッチひとつで動くというヨットを建造。JボートはJ100を、モーリス社はM36を、そして、アレリオンは38フィートを建造していきます。ちょっと大きなサイズでは電動ウィンチが当たり前、それからアレリオンに習って、セルフタッキングジブが採用されています。遅ればせながら、セーバー社もこの春、セーバースピリット36を建造しています。

これらデイセーラー/ウィークエンダーはアメリカ市場で大成功を収め、そのバリエーションを増やす事になります。フレンドシップは53を、モーリス社は42を、逆に、アレリオンは33を出しました。
同時に、他社ではブルックマン42、E33、ヒンクリー42、ヨーロッパではイタリアのブレンタというデザイナーがB38を、後に30、そして今もっと60ぐらいのを計画中とか。全体的には、アメリカはクラシックな雰囲気を基調に、船底とかリグはモダン、クルージングの雰囲気を持ちながら、帆走性能を高め、且つ操作はシングルで可能という流れ、イタリアのヨットはモダンな雰囲気、いかにもイタリアらしいデザインです。WALLYヨットというのをご存知でしょうか、そういう雰囲気ですね。

一般ヨットは大量生産艇が主流です。そこで他の多くはレーサーか外洋艇に行きます。その中にもうひとつ作られてきましたデイセーラーという市場、外洋艇ビルダーが新しい市場として参入してきています。どれも外洋艇ビルダーが作るヨットですから、品質は確か、その始まりであるアレリオン28は最も人気が高く、10年以上前の時とデザインは同じでありますが、今はもっと洗練されてきています。ジブブームはアレリオンのホイト氏考案の特許、これがアレリオンに設置されるようになって、さらにシングルハンドが楽になりました。

多くのデイセーラー共通は、低いフリーボート、高いバラスト比、ライフライン無し、セルフタッキングジブに大きなメインのフラクショナルリグ、広いコクピット、反面キャビンはシンプルに、あくまでセーリングを気楽に遊ぶ。同じコンセプトを持ちながら、サイズがでかいのが出てきています。実際、35,6フィート以下ではキャビン天井が低く、真っ直ぐ立てない。でも、それを高くするとスタビリティーの問題もあるし、美しさの問題も出てくる。それで40オーバーなんかが出てきたのでしょう。

しかしながら、外洋専門ビルダーのヨットですから、作りは良いが、価格も高い。おそらくフレンドシップが最も高価かと思いますが、40フィートでベーシック価格は軽く1億を越えます。そんなヨットが大成功を収め、53、そして今ではセンターコクピットの63を計画中です。

何故、こうも広がっていったのか、大型といえども、できるだけシンプル、それでいて、シングルでも動かしやすいように、クルーは不要、とにかく、簡単に出せて、遠くへというより、その日のデイセーリングでも躊躇無く出せる、それでロングは行かないがウィークエンド程度なら行く。そして、何しろ、低い重心で帆走自体を楽しむ。それが、受け入れられたという事でしょう。

こういうコンセプトは、日本市場において最適かと思っています。忙しい日本人、キャビンに住まない日本人、忙しいですから外洋なんて行く暇はありません。出ても近場ぐらいにまでしか行く暇が無い。そういう日本人事情においては、これらのデイセーラーコンセプトはピッタリじゃないかと思います。日本でもようやく大きなキャビンである必要は無いという方々が増えてきました。どうせ使いやしない。それにクルー無しでシングルで動かせる事のありがたさも出てきました。クルージングでも帆走する事の面白さも出てきた。日本もこれからではないかと思います。

わずかですが、日本にもそういうヨットが入っています。アレリオン、ノルディックフォーク、モーリスです。決断は簡単ではなかったと思いますが、今では、普通のヨットに戻る事はありません。考えてみたら、キャビンの狭さ、シンプルさなどが、果たしてこれでいいのか、しかも価格は安くない。
回りを見渡せば、大きなキャビンばかり、でも、今はそれで良かった。何度も、何度も買い替えをしてきたヨット、最後に落ち着くのはデイセーラーではないかと思います。

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