第六話 発明

誰が発明したかは知りませんが、ファーリングシステムというのが実に楽ににしてくれます。それまでは何枚かのセールを交換しながら走っていたのが、1枚で全部やるわけですから、実に楽です。
オートパイロットも素晴らしい発明ですし、電動ウィンチなんかも、これからおおいに役立つでしょう。アレリオンのジブブームなんかも、これは素晴らしい発明かと思います。

これらの発明は、みんなより楽にしてくれます。昔は大変な思いでセーリングをしていたのが、今は楽にできるようになりました。という事は、昔よりもっとヨットを楽しんでいても可笑しくないはずです。ところが実際はその逆で、セーリングしているヨットは少なくなりました。

これらの発明は楽にはしてくれますが、それだけで面白いという事にはなりません。面白い事をより楽にできるようになったのは事実でしょうが、ファーラー自体が面白いわけではありません。今ではファーラーは常識ののようになり、メインのスライダー、レージージャック、オートパイロットなんかも常識のようになりつつあります。それはそれで良いのですが、より楽になったわけですから、もっと楽しめるようになったわけですから、ヨットはもっと動いてしかるべきと思うのです。

先日輸入いたしましたフォークボートはシンプルです。ファーラーが無い、ボルトロープ、オーパイも無い。ハリヤードウィンチも無い。機械としてあるのは、シートウィンチだけです。もちろんエンジンもありますが、ヨーロッパではエンジン無しで乗る人達も多いようです。便利な文明の利器というものがありませんが、便利に慣れた日本人からすると、これにファーラーをつけたくなります。便利にしたくなります。でも、一歩下がって見てみますと、欧米の連中はこれをそのままで乗ってる人が多い。そういう事を自分でするのさえ楽しんでやってるのではないかと考え直しました。

マストがウッドなんですが、日本人から見ればこりゃメインテナンスが大変だと考える。でも、多分欧米人は船底塗装をする時に一緒にマスト抜いて、マストのメインテナンスをする。そんなマストを抜くという行為をたいそうな事とは考えずに、気軽に考えているのではないかと思うのです。確かに、クレーンで吊ってやりさえすればマストなんか簡単に抜けますし、設置するのも簡単です。サイド2本とフォアステーの1本のターンバックルをクルクル締めてやればOKですから、実に簡単。そしてどの程度締めるかのチューニングするところから遊びが始まっているのではないかと思います。
そのあたりが、遊びに対する余裕と言いますか、広さと言いますか、大きなヨットでは無いので、簡単だし、大袈裟に考えない。そんな違いがあるように思えます。

もちろん、ファーラーをつけない方が良いなんて言うつもりはありません。おおいに結構かと思います。それだけ楽になったのだから、もっと遊べるからです。でなければ、便利になった分遊ばなければ、便利は楽しみを奪っただけになります。便利な装置が悪いわけでは無く、使う方の問題です。大きなヨットには電動ウィンチをお奨めします。その方が楽ですから。楽になったからこそ、もっと楽しめるようになったわけですから、おおいに遊んで、その恩恵を享受して、そのメリットを楽しんだ方が良いと思います。他のヨットが必死の思いでセールを上げる時にボタンひとつでスイスイ上げれるわけですから、ヨット出すのに躊躇は要らない。便利さはこういう所にこそ発揮すべきかと思います。

それで、一方ではフォークボートのように、シンプルさを楽しむ乗り方もあります。どちらも実に良いと思いますね。便利をどんどん追求していって、どんどん楽しむ。反面、便利さよりもいろいろ操作する所に面白さを感じる乗り方もある。両方良いと思います。

元々、発明は人を楽にするものです。煩わしい操作からの解放です。ところがヨットに関しては、煩わしい作業は少なくなったが、その分。楽にセーリングできて、その先のもっとセーリングの質と言いますか、そういう事を深く味わう事が便利さを享受した意味ではないかと思います。以前は楽ではなかったので、セーリングするにはいろんな操作が必要でした。そうすると、セーリングする事自体が大変な事で、一種のチャレンジのようだったと思います。しかし、今はセーリング自体は楽にできますから、それだけではチャレンジにならない。それで、チャレンジを求めて、遠くに行きたくなります。でも、行けないので、近場でセーリングする。でも、意識は深いセーリングを求めていないのでチャレンジにはならない。そこに面白さが無い。

ちょっと見方を変えて、近場のセーリングを面白くする方法は無いかと考えます。それが面白ければ、時間が無い人でもできます。便利を少なくして、操作を増やす。サイズを小さくしてチャレンジ性を高める。シングルハンドをやる。ナイトセーリングをする。セーリング性能を極めていく、スポーツ性を高める事です。まだ他にもあるでしょう。発明された便利を利用するにしても、いろんな方法があります。オートパイロットを設置しても、使わないで全部やる方法を考える。使えば使う分楽ですから、楽は体が楽なだけで、頭は楽しいわけではありません。遊びは頭脳が楽しいと感じなければなりません。頭脳が楽しむ、そして感性が驚くような事をする。

美しいヨットは感性を刺激します。スムースな動き、スピード、それらも感性を刺激します。そして、それらを得る為に頭脳は考え、いろんな作業をする。作業は楽な方が良い。でも楽だとそれ以上考えないようになるので、意識してその先を考えなければなりません。そうしないと、頭脳は面白く無い。意識がセーリングから離れますと、頭脳は考えなくて良いですから、面白くありません。感性は時折見せる変化で刺激を得る事もありますが、頭脳が動いていないので、たいした刺激にはなりません。この二つは互いに関連してきます。

頭脳が考えて、行動に移し、その結果を感性が刺激として受ける。この一連の流れがあってこそ、感性はもっと刺激を受けます。あの操作の結果、こういうスムースな走りになったとか、舵を切るタイミングがピッタリ行ったとか、こんな事はどうでも良いと言えばその通りなのです。だからそれがどうしたと言われれば、どうもしません。でも、ヨットは遊びだと言う事が基本ですから、遊びは面白くありたいですから、しなくても良いですが、それを遊びとしてやれば面白くなります。

野球やるにしても、便利だからといって、ピッチングマシンを使ったんじゃ、勝てたとしても面白くはありません。自分で投げる、工夫して投げる、打たれたら、次回に違う攻め方をする。そんな工夫が面白いになるのだと思います。

結論、便利はおおいに享受して、楽になりましょう。その代わり、操作の面白さを少し手放したのですから、その分、セーリングに頭脳を使います。或いは、便利さを極力抑えて、操作自体をも遊んでしまう。どちらでも構わないと思います。どっちも遊んでます。何度も言いますが、便利と面白いは関係ありません。むしろ、不便な方が面白かったりします。ヨットは不便を遊んでしまうか、或いは、便利を使って、さらに突っ込んでいくか、そのどちらかではないかと思います。便利だからと言って何もし無くなると、ヨットそのものが面白く無くなっていきます。便利になったら、もっとその先を見て、もっと面白い、深いところに突っ込んで行く。そういう所に面白さを見出さないと乗れなくなります。つまり、チャレンジ性ですね。いつも心にプチチャレンジを。遊びは少しぐらい不便な方が面白い。大きな不便だとやる気が失せてしまうので、少し不便ぐらいがちょうど良い。その不便が、もう少しが、面白いになるのではないかと思います。

アレリオン28は便利です。ファーラーはもちろん、セルフタッキングでタッキングは舵操作のみです。ジブブームのお陰でダウンウィンドまでが楽にできます。しかし、その楽さだけに終始しますと、面白味が欠けてくると思います。それで、フレキシブルマストでマストベンドなど調整しながら、より良いセーリングを目指して遊びます。一方、ノルディックフォークはシンプルな艤装です。便利さはあまりありません。でも、そこを楽しむのがこのヨットです。

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