第七話 我侭の薦め

我侭は良くないのが世の中の常識です。我侭は自分が最もしたい事を推し進める事であり、周囲に迷惑をかけるのが良くないのであって、迷惑がかからない我侭なら良いわけです。と言っても、周囲に迷惑がかからない我侭は我侭とは言わないのかもしれませんが。

社会生活を営む我々にとって、我侭とは贅沢な事かもしれません。それができるとは快感でもあります。誰でも我侭を言いたい。でもできないのが世の中です。それで、遊びに関しては我侭を言いたい。最も自分の気に入ったヨットで、最も気に入った使い方をする。それが最高の贅沢です。幸か不幸か、ヨットには家族が来ない。家族が来ない事を嘆く必要はありませんね。そうなら、自分の我侭で乗る事ができます。

ヨットを書斎代わりに使う事もできます。自分の個室です。或いは、最高のおもちゃとして遊ぶ事もできます。ヨットを自分だけのワクワク、ドキドキするような最高の道具に仕立て上げる。男は子供みたいなところがありますから、何かドキドキするようなおもちゃが必要なのです。ヨットは男にとって最高のおもちゃになります。これは奥さんにとっても悪い事では無い。旦那がワクワクして遊んでくると、活き活きとした人生を作り上げます。浮気してるわけじゃありませんから。

最高のヨットで、最高の遊びをする。男は蘇ります。男がワクワクするには、そこに一種のスリルが必要です。いろんな種類のスリルがありますが、セーリングは最高のスリルを与えてくれます。最高のヨットに最高のセーリング、これに勝るものは無いと思います。男は大きな物を持ちたがる。それも満足感を与えてくれます。しかし、もっと満足したかったらセーリングする事です。思う存分、自由自在にセーリングしたいと思うなら、自分サイズのヨットである必要があります。大きなヨットでめったに動かせないより、自分サイズで自由自在の方が遥かにワクワク感があります。

自分サイズは大きくても、小さくてもいけません。自分が自由自在に操れる適度なサイズ、気持ちが負けないサイズ、自分のパワーとつり合うサイズ、ヨットの大きさを競うより、自由自在度に誇りを持ち、美しさに誇りを持つ。

ヨットは美しく、セーリングも美しく。その方が遥かにカッコイイと思います。男はかっこよくなくてはいけません。そこにはこだわりもあり、誇りもあり、自分の世界がある。大きいだけがかっこいいわけではありません。セーリングを深く知り、実行し、熟達していく様はとってもカッコイイと思います。
確かに、大勢でにぎ合うのも良いかもしれませんが、ひとりの時何ができるか、個になった時その真価が問われます。

シングルハンドセーリングはそんな個としての、最高のパフォーマンスです。どんどん乗って、腕を上げて、自由自在になって、スリルを味わって、ドキドキして、時に最高のセーリングに出くわした時、体中にアドレナリンが放出されて、最高の快感を味わう事があります。これこそ最高のセーリング、ヨットの醍醐味です。セーリングしながら、コクピットでおしゃべりに興じていたのでは、こんな感覚になる事はありえません。全てのヨット愛好者にこういうセーリングを一度でも味わって頂きたいと思います。そうしますと、セーリング以外の事はそれほど重要とは思わなくなるでしょう。

キャビンがどれほど大きくても、最高の装備をしていても、それでドキドキする事はありません。でも、セーリングしていますと、たまにですが、そういう時があります。こういう感覚を是非味わって頂きたいと思います。それには普段からセーリングするしか無い。これを一旦味わいますと、セーリングが優先になります。その為にどんなヨットでどんな艤装が良いか、キャビンも重要かもしれませんが、それよりもっと面白いセーリングをしたくなります。

それは多いにヨットそのものにも関係してきます。世の中、多くがキャビン優先です。それではドキドキ感は遠のくばかりです。ヨットも意識もセーリングに向いていません。でも、長年ヨットをやっていく中で、いくらクルージング派と言えども、あのドキドキ、ワクワク感は一度は味わってほしいと思います。そうしたら、ヨットに対する考え方は一変すると思います。是非、我侭に、セーリングを追及して頂きたい。大勢でにぎ合うセーリングもあるでしょう。でも、ひとりでそんな我侭セーリングができたら、世界は一変します。

ちょっと練習すれば、近場のセーリングはできるようになります。問題はその後です。どんなセーリングをするかによって世界が決まります。ピクニックセーリングか、クルージングか、或いはセーリングの追及か?遊びだからと言って、ただ楽しいだけの遊びから、緊張感を持った追及の遊びというのもあります。休みだからのんびりしたいと思われるかもしれませんが、遊びを追求するのも悪くありません。それどころか、充実した時間、快い疲れ、でも頭脳と感性は喜びます。

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