第五十六話 欧米と日本のヨット事情

海外でも、大半は大量プロダクション艇で、キャビンを重視した、滞在型が多いように思います。マリーナはいつも賑やかです。住みついている人も少なく無いし、なにせケーブルTVも電話も郵便配達までしてくれます。それにちょっとエンジンで出て、そこでアンカー打って、海水浴。エンジンを使うのは日本も欧米も同じようです。

一部の方は外洋の旅を目指す。また一部はデイセーリングを楽しむ。それにレーサーもたくさんあるし、ディンギーで遊ぶ人達も多い。日本でも同じかもしれません。ただ絶対数が圧倒的に違います。日本でも外洋を目指して出る人も居ますが、欧米でのそれは全体の割合が同じだとしても、数で言えば圧倒的に多い。

欧米でも平均的な使い方というのは、大量プロダクション艇の使い方にあるのではと思います。そこが最も多いから、それに合うヨットを造るのはマスプロダクションの有り方です。その平均的使い方はキャビンの滞在型にあるように思います。そこが日本と最も異なる部分です。

ある外国人、日本でヨットに来ました。土曜日の午後、みんながヨットで遊んで、夕方になったらみんな帰っていくのを不思議に思ったようです。明日は日曜なのに、何故みんな帰るんだ?ここのところが最も日本と欧米の違いではないかと思います。欧米では最も数の多い使い方が、日本では殆ど無い。

外洋に行くなんて事は簡単じゃありません。それでも行こうとする人達は、それなりの人達です。日本も欧米も同じでしょう。

欧米で最も多い使い方はキャビン重視の滞在型。その同じヨットが日本でも多いのですが、日本では使い方が異なる。ですから、日本の方々ももっとキャビンを使う事を考えた方が良い。土曜日にヨット行ったら、その日はヨットに泊まる回数を増やす。みんなで料理作って、その日は車運転しませんから酒も飲み放題です。ただ、もうひとつ違うのは欧米は家族単位、日本は家族がなかなか来ないので、お父さんの仲間が来る。お父さんだけヨットに泊まってくる事になります。それを家族を誘って、そういう事を試みる。大きなキャビンがあるという事はそういう事だと思いますので、欧米に見習って、家族でもっとキャビンを使いましょう。

おっと、それが出来るなら既にやれる人はやっているでしょうね。でも、多くはそうでは無い。という事はそういう使い方は性に合わないという事になります。マリーナ事情も影響しているかもしれませんね。

じゃあ、どういう使い方が最も良いのか?泊まらないけれども、日帰りとしてキャビンを使うか?とにかく、あれだけ大きなキャビンがあるのですから、おおいに使いたいもんです。子供が遊びの天才と言われるのは、大人から見てつまらない事でも面白がって遊べるところです。でも、大人はそうはいきません。欧米人の大人は何しているかと見てますと、ビール片手に延々と何時間でも話をしている。回りのヨットにも家族が来てますから、隣同士のコミュニケーションがある。つまりは、仕事を離れて、いかにも別荘に来てますの雰囲気ではなかろうか。特に何もしない。ただ、のんびりです。何も特別な事無くても、楽しむ事ができるからこそ、毎週でもOKなのでしょう。

日本はそういうわけにはいきません。毎週泊まるなら、毎週何かが必要です。そういう面で、日本人は欧米型のキャビンの使い方は苦手ではないでしょうか。では、どうやったら日本人は面白いのか?日本人は忙しいのが好きなんです。いろいろやる事たくさんあって不平を言いながら、暇になると、どう過ごして良いか解らない。それで、仕事はもちろん、遊びも何かをしたくなる。プールサイドで1日読書する金髪の美人、別に金髪じゃなくても良いのですが、翌日も同じところに居る。それは休暇が長いからという単純な事では無いと思いますね。

これは性分ですから、何ともし難い。そうは言ってもこれが別に悪いわけじゃない。性分に合う使い方をするのが良いわけです。

ヨットで料理というと、これも一般的にはですが、殆ど作らない。コーヒーを入れるか、ラーメン、レトルト食品程度ではないでしょうか。ご存知の通り、輸入ヨットにはオーブンまでついてる。そのオーブン付きストーブを使わないで携帯ガスコンロを持ち込む人も少なくない。
冷蔵庫がありますが、スイッチオンから何時間もしないと冷えない。つまりこれは、滞在型の人が家庭と同じように使える為に、陸電で冷蔵庫を冷やす為にあるのではなかろうか?本格的にロングを走る人が冷蔵庫を採用する場合、2,3時間冷蔵庫を回すだけで、その後オフにしても1日中冷蔵庫が冷えているというのがあります。そうじゃないと、通常の冷蔵庫ではバッテリーの心配もあってエンジンを回す。その燃料がもったいないのです。ガソリンスタンドは海にはありませんからね。

いろいろ考えますと、キャビンは滞在型の為に考えられている。ならば、もっとキャビンを使いましょうという話です。どんな使い方があるのか、と考えますに欧米式以外ではなかなか思いつかない。泊まる事が最大の活用術かと思います。そういう私も日本人ですので、滞在型ではありません。

それでヨット活用術を考えるに、何かしたがる日本人には、滞在型からセーリングにシフトした方が良いのではないかと考えるわけです。セーリングにシフトしたなら、ただぶらぶらでは退屈になるので、スポーツ型を考えるわけです。

ならば、キャビンは必要だけれども、そんなに滞在型である必要性は無い。という結論になってくる。それでも、ほんのたまに泊まろうと思えばできる。ヨットのタイプによっては、ちょっとキャンプ気分かもしれませんが。でも、それはそれで趣がある。キャビンが必要以上にでかくないので、それはセーリングには都合が良いわけです。もっとセーリングを楽に堪能する事ができる。

15年ぐらい前までは、ヨットのキャビンは今程大きくは無かった。フリーボードは低かった。それでもキャビンは充分だったと思います。でも、今はキャビンがもっとでかい。これでもかという感じです。量産艇はみんなそうです。ただ、ちょっと他に目を向けてみますと、小規模のプロダクション艇ビルダーには、キャビンばかりを強調するようなヨットばかりではありません。こういうビルダーはキャビンの代わりに何を強調するかと言いますと、品質の良さとセーリングです。また、外洋性でもあります。こういう艇は大量生産艇より少し割高でもありますが、日本人には合うんじゃないかと思う次第です。2,3年で買い換えるなら別ですが、長い期間乗り続けるとその恩恵は大ですし、再販価格も高くなるので、良いと思うのですが。

完璧クルージングと自称する方でも、後ろから来たヨットにスイスイと追い抜かれたら気分が良いものではありません。それが日本人です。でも、滞在型ヨットなんですから仕方無いんです。滞在型でない人が、滞在型ヨットで遊ぶにはちょっと合わない部分があるという事になります。

そこでキャビンも充分あって、でもセーリングの事を考えているヨット、キャビンをもっと少なくして、もっとセーリングが楽しめるヨット、そしてもうひとつは外洋性のあるヨット。外洋性と言いましてもいろいろで、外洋一本やりのヨットもあれば、外洋性を持ちながら、そのなかでも帆走性能を高める努力をしているヨットもあります。これらのヨットは日本に合うと思うのですが。

今のところ滞在型ヨットが最も価格的に安いので仕方無いとは思いますが、ちょっと違うタイプも考えてみませんか?例えば、イタリアコマー社のコメットヨットは、充分なキャビンがあります。でも、セーリングが重要と考えます。シングルハンドデイセーラーのようなヨットもあれば、セーバーはコメットよりももっと外洋寄り、でもセーリングを無視する事はありません。ヨットはセーリングを主に楽しむか、キャビン滞在を楽しむか、旅を楽しむか。主が決まったら、それが充実していたら、後の事はまあ適当でも良い。余裕で楽しめると思うのです。

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