第五十二話 理想的ヨット

理想的とは、あくまで個人の主観であり、それぞれによって異なると思いますが、ダブルハンド以上の場合でしたら、ひとりが舵を持って、もうひとりがその他、何でもできます。時間はかかるかもしれませんが、大きなヨットでも可能です。ところがシングルになりますと、事情はがらりと変わり、舵を持ったまま何でもできるのが理想的かと思います。それも、セーリングを遊ぶのが主で、セーリングの面白さを味わえるシングルという事になろうかと思います。

舵を持ったまま、メインシートが扱えるのは当然で、同時にジブシートも扱えるのが理想です。それだけでは無くて、セールコントロール全部を扱えるのが理想です。おまけに、ダウンウィンドの事まで考えるとジェネカーまで扱えなくてはなりません。全てが、舵を持ったまま、扱える。これが理想ですが、そんなヨットはなかなかあるもんじゃありません。それで不足した分は妥協するか、或いは、どうにかできないかと考えます。こうしたらどうだろう、ああしたらどうだろう?これは困った事ではありません。どうにかしたい、どうにかしようという事を遊んでいるわけですから、それが面白いという事になります。困った部分を電動にするとか、方法はあります。しかし、それで面白いかどうかも検討しなければなりません。いろいろやるのも面白いのです。

それで、もし完璧になったらどうしよう。もう何も改良すべき所は無い。理想の完璧です。そうなりますと、人間はまた身勝手と言いますか、完璧になると面白味が失せてくる。まあ、心配しなくても、完璧にはなりません。完璧に見えて、実際乗っていきますと、こういう時にこうならないかと思うものです。ですから一生遊べます。90%ぐらいは、最高だと思い、でもあと10%ぐらいは、ああでもないこうでも無いと言っているぐらいが、完璧では無いが理想的です。

シングルハンドコンセプトのヨットがあっちこっちから出てきます。それなりにデザイナーが考え抜いてデザインしたヨットですので、魅力が一杯詰まってます。その中で、艤装は変える事ができます。もちろん、マストなんかは変えるのは大変ですが、取り回しなどは変える事ができます。変えれないのは、船体とセールプラン、スタビリティーなどです。つまり、艤装を変えて、扱いやすくはできますが、セーリングのフィーリングを変える事はできません。そこが重要になると思います。

強風に強いヨットは微軽風には走らない。逆に微軽風でも良く走ってくれるヨットは強風には結構しんどい。微軽風から中風に焦点を絞ったヨットと、中風から強風に焦点があるヨット、どっちにしますか?という事になります。昔のヨットは大抵、中風から強風に焦点がある。それがだんだんと変化していき、船体も軽くなり、中風から微軽風方向に変わり、さらに、セーリングからキャビン重視に変わってきています。それは多くの方々が外洋には行かないし、それに時化たら出無い、キャビンで過ごす人が多い、そういう傾向からだと思います。でも、それは一般の流れ(海外の人達)であり、今でも、外洋艇は造ってますし、新しい傾向としてデイセーラーが出てきました。

つまり、ヨット本体が持つコンセプトと自分の理想を照合して、選択する事が重要かと思います。艤装は変える事ができても船体を変える事はできません。

ブランド物のバッグを買うと嬉しくなる。だから高くても買う。バッグとしての機能だけの問題ではありません。心の問題です。ですから、50万もするようなバッグがどんどん売れる。日本市場はブランド物にとって非常に大きなマーケットだそうです。ヨットにもブランドがあります。正しい評価を下されているかどうかは別ですが、それを持つと嬉しくなる。でも、ひとつヨットがバッグと違う所は、使い心地に大きな差を生む事です。微軽風の時、強風の時、波が高い時、ブランド物だろうが、無名だろうが容赦無い。それに古くなった時に差がでます。でも、日本ではオーナーのメインテナンスが悪いのだろうという事で片付いてしまう。もちろんそれもある。でも、良いのはやっぱり良いのです。

話が少しそれてしまいまいましたが、ヨットは船体とセール、そのセーリングのフィーリングを買う事になりますから、どんなフィーリングを与えてくれるだろうか?と考えてほしいと思います。もちろん、艤装やキャビンなんかも無視はできませんが、でも、大抵は、それらはセーリングを反映していると思います。特に、艤装の仕方はそのヨットのコンセプトを反映すると思いますね。ヨットのコンセプトによってマストも決まる。セールプランも決まる。

ただ先日見たカスタム艇ですが、オーナーの意向だったと思いますが、船体はクルージング、でも、マストはランナー付きのレーシング、でも、何故かそれにしちゃマストが少し低いような。

軽風だとジェノアがほしい。でも、強風になったらセルフタッキングが良い。ファーラーで小さく巻く事も可能ですが、でも、ただの布になってしまう。トータルのセールエリアを考えますと、やっぱり、大きなメインに小さなジブですかね。小さなジブならシート引く時に、力の掛かり方は軽い。それに2分の1なんかのテークルを組むと、さらに軽いので、ウィンチ回さなくても良いかもしれない。そうすると片手でできる。それに引き換え大きなメイン、メインで走る。だから、マストはちょっと前に位置、メインを遊ぶので、いろんな艤装を設置する。カニンガムもほしい、できればフラッターなんかもあった方が良いかも。マストはフレキシブルで、容易にドラフトをコントロールできて、風に合わせていろいろ遊べます。それが舵に伝わって、スイスイ走れれば、面白いに違いない。その代わり、ロングには行かない。行っても年に1回ぐらい。それもちょっと遠出ぐらい。まさしくウィークエンドのオーバーナイト程度。

ガスコンロはDIYで買えるポータブルが良い。清水はペットボルトを買ってくる。全くトイレは使わないが緊急用でポータブルでも良い。後は、ゴロンと寝れるスペースがあれば良い。メインテナンスも簡単だから、いつもピカピカに、私物はできるだけ少なく。スッキリと。ロングには行かないので、ドジャーも要らない。ビミニトップは確かに夏の無風状態ではありがたいが、でも、敢えてつけたくは無い。コクピットで過ごす時はブームの上にテントを張ろう。

出したい時に、ひとりでも気軽に出せて、スイスイ走ってくるのが理想です。気軽にいつでも出せるから、出た後強風と高い波でしんどかったら、すぐに帰る。せっかく出たのだからという気持ちは無い。またいつでも出せる。

ヨットだけが人生の全てでは無い。他にもしたい事はある。ですから、ヨットが気持ち的にヘビーになると良くない。あくまで気軽に。いろんな遊びのひとつです。温泉にも行きたいし、映画も見に行く。音楽もやりたいし、本だって読みたい。そうなるとヨットは気軽じゃなくちゃいけません。気軽に遊ぶには、本当に味わいたいエッセンスに絞って、そこだけを強調して味わいたい。それが私の理想です。理想のヨットでは無く、理想のライフスタイル、それに合うヨットは何かという事になります。

大きなキャビンは、それはゆったり寛げるだろうと思うし、良いなと思う。しかし、私のスタイルでは気持ちがヘビーになる。時化た時は大きなヨットだと余裕です。しかし、ロングに行くわけじゃないから、面白い時に面白いセーリングが出来た方が良い。

人によってスタイルは違うので、自分のスタイルがどうなのか、それにいかに反映させるか。それが解ると、ヨットはもっともっと楽しくなる。

それで、日常はデイセーリングでシングルで自由自在にセーリングを楽しみたい。また、時にはロングにも行きたい。そういう場合はどうするか?これは矛盾する希望です。ヨットは困ってしまいますね、そういう事言われると。でも、海外では既にそういうコンセプトのでかいのが出てきました。
ただ、これは操船する人間側の問題になろうかと思いますが、でかいのを気軽に出せるかどうか。
海外に行きますと、周りのヨットがでかいのが多いですので、感覚が麻痺してしまう。でも、DNAの観点から言って、危険を感じるDNAは日本人の方が強いらしい。ですから、でかいヨットをひとりで気軽に出せるのは外人の方が強いようです。

それぞれに考え方も違いますし、ライフスタイルも違う。上に上げたのはあくまで私の理想です。みなさん、それぞれが自分の理想を想像してみてはいかがでしょう?

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