第二十三話 緊張感

緊張感にもいろいろな種類があります。人前で何かをする時の緊張感、危険な状況にある緊張感、きれいな女性と話をする時の緊張感もありますね。それらは楽しめる緊張感と楽しめない緊張感があり、ヨットで言うお勧めの緊張感とは楽しめる緊張感です。ピンと張り詰めた、神経の集中した時の緊張感、ドキドキするわけでは無く、心は落ち着きはらっています。

そんな時、ほんのわずかな変化も感じられる準備が整っています。それは愉しいというより、面白い、ぞくぞくする緊張感です。そんな時にブローが入る。風に変化が出る。さっと変化に対応してスムースに流れるように走る。緊張の中にあって、これこそ優雅で、面白い。まるでダンスです。誰でも出来るかというと簡単では無い。だからこそ、そこを目指す。そこに到達すると何があるのか?
何も無いが、高揚感があります。求めるはこれです。

強風の中にあって、張り詰めた緊張感。それはスリルを感じさせる。楽しむ次元ではないかもしれません。夢中です。無心です。そして、これから解放された時、緊張の糸が緩む。終わった時のほっとした開放感は、また違った感覚です。

強風であれば誰でも緊張します。でも、微風になるとだれてくる。それも良く解ります。微風において緊張感を保つ事は至難の技かもしれません。これはかなり高度になります。実際、微風でより良く走らせるというのは非常に難しい事です。何故なら、反応が非常にわかりにくいからです。微風で緊張感を保てる人はかなりのレベルではないでしょうか。

中風なら誰でもそこそこ走れる。面白さもあります。それで緊張感を無くすと、セーリング自体の面白さは半減してきます。こういう時にこそ、いろんな事して、いろんな知識を試すチャンスです。それが微風時にも、強風時にも生かす事ができるようになるからです。

セーリングをしていますと、いろんな緊張感に見舞われる。何度も味わうとそれを楽しむ事ができる。何故なら、その分腕が上がっているからです。初心者の頃は出るだけで緊張し、それ以上の事はできません。でも、だんだんと腕が上がるにつれて、いろんな緊張感を楽しめるようになる。
そして、これらの緊張感にはいつも緩和が伴います。この落差が面白いと感じるようになります。
どこまで行くかは、人次第、自分の腕次第、楽しめる緊張感をたくさん持つと、もっと楽しめるようになる。全ての人は、自分のレベルで緊張と緩和を楽しむ事ができます。

ヨットの面白味は緊張と緩和です。どちらか片方だけでは、面白く無くなります。飽きてきます。誰でも楽が好きですし、便利が好きです。でも、同時に緊張感を無くしてしまうと、ヨット自体を退屈な道具に追いやっていっている事になります。無理な緊張はいけませんが、自分のレベルでの緊張感を保つ事が、ヨットを楽しむ最大の秘訣ではないかと思います。面白いと感じるのは、この緊張感と緩和の差ではないかと思います。この差が大きければ大きいほど、面白さは大きくなります。しかし、この大きな差を苦痛と感じてしまう事もあります。より大きな差を面白いと感じるには、やはり知識と経験の豊富さによるかと思います。つまりは余裕の幅でしょうか。初心者の頃はわずかな差、慣れてくると大きな差を面白いと感じるようになる。この緊張感は何も、他人から見てすごいとか言う問題でも無く、冒険の大きさである必要も無い。自分の好きな緊張感で良いと思いますね。

デイセーリングにおいて、わずかな時間であっても、神経が集中して緊張感あるセーリングができる時、こういう時にこそアドレナリンが噴出してきます。つまりは、面白いかどうかは、究極的には、風がどうかというより以上に、自分の集中の度合い、緊張感の度合いによるのかもしれません。

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